注:作品名をクリックすると、各作品の紹介にジャンプします。
なお作品紹介では、結末までのあらすじを記してありますので、未読の方はご注意ください。
日本を舞台にした連作集。
表紙裏の作者の言葉によると、
「ふつうは、春夏秋冬と、春からはじまるのですが、最初に描くチャンスがめぐってきたのは夏だったので、
夏の話から発表する事になったものです。」
どの話も、死者と残された者をめぐる話で、作者が亡くなった後、読むのが辛かった。
Nifty-serveのFCOMICOの70年代会議室で、連作の登場人物の名前が花郁悠紀子さんの名前にちなんでいるという指摘があった。 (「夏の風うたい」の悠、「秋の時うつり」の由紀彦、「冬の波さやぎ」の郁也、「春の花がたり」の櫂) 言われてみれば、なるほど。
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妹奈津子を交通事故でなくした功作の家に、父をなくした悠が引き取られてきた。
悠はショックで事故のことを忘れているのだという。
父のことを思いだそうとしない悠に功作は、亡くなった妹の話をする。記憶の風から逃げなければ、いつか風は優しくなると。
悠は花火がきっかけで事故のことを思いだし、過去と向き合うため、以前住んでいた家を見に行く。
悠を送り出した後、功作は倒れる。春に手術した癌が転移したらしい。そのことを知った功作の恋人は、どこまでも彼について
いくことを彼に告げる。
どうして、こういう展開になるのかなぁ、と思うんですよね。 悠が記憶を取り戻してハッピーエンドで終わったっていいはずなのに、功作が癌で倒れるなんて。 なんで...?
鷹緒(たかお)は、異母弟の由紀彦を引き取るため、由羅高原へやってきた。だが、由紀彦は、
由羅高原に住む野生馬の長である黒馬羅侯(らごう)と別れるのを嫌がる。
由紀彦は、羅侯が由羅高原の神なのだという。
羅侯は、由紀彦を連れ去ろうとする鷹緒に襲いかかる。だが、由紀彦が鷹緒をかばったため、
羅侯は去っていった。鷹緒は、遠のく意識の中で、黒い神のまぼろしをみた。
夢の中の神は涙を流しながら高笑いして嵐とともに去っていくのだった。
花郁さんは馬が好きだったそうで、馬の群れのでてくる作品がいくつかあります。
これもそのひとつ。
ストーリーの中に神話や童話を取り入れるのも花郁作品の特徴。他にも
「春の花がたり」(作中人物が作った童話)「春秋姫」(佐保姫、竜田彦)
「カルキのくる日」(ギリシャ神話) や
「私の夜啼鶯」(アンデルセン童話)などがあげられます。
陸美(むつみ)の家に、父の友人の養女となっていた大海(おおみ)が戻ってきた。
養父が海で亡くなり、養母の身体の具合が悪くなったためだ。
姉としてなんとか大海と親しくなろうとする陸美だが、大海は打ち解けようとしない。
大海の母は、病院で亡くなる。知らせを聞いて、飛び出していく大海。
迎えにきた陸美に、大海は養母と再び暮らすため、
わざと実母たちから嫌われるよう振る舞っていたのだと語る。
タイトルの「波さやぎ」というのは、木の葉がさやぐ音が波の音に聞こえることからつけられたもの。
櫂(かい)の小説家の父が亡くなった。遺品の整理のため、父の暮らしていた別荘へやってきた櫂は、
花の谷で翔(しょう)という少年と出会う。遺産争いに疲れた櫂は次第に翔に惹かれていく。
だが、翔は櫂の父と愛人との間の子であり、しかもその母は櫂の父の異母妹だった。
自分の命が長くないと知っている翔は、谷の持ち主である祖母に、谷を櫂に譲るよう言い残して、家を出る。
雨上がりの花の谷で、櫂は花の中に眠るように死んでいる翔をみつける。
そうして櫂は父の日記から、父の遺した物語のすべてを知った。
花郁作品で何度もでてくる異母兄妹の禁じられた恋のテーマが出てくる話。
他には「紅玉の園にて」や「カルキのくる日」 「風に哭く」などがあります。
「幻の花恋」や「それは天使の樹」も、ちょっとその傾向があるかもしれません。
「百千鳥」は、この物語の前日譚。
日本画家 衣笠翠景の娘 茜は、交通事故で死去した父の遺品を整理していて竜田姫の絵を見つける。
その絵のモデルは、茜に良く似た娘だった。その日遺言状が開かれ、茜以外にも翠景の娘がいることがわかる。
茜はその娘 藍根(あいね)に会うため、金沢へ向かう。だが、茜は藍根の描いた絵を見てショックを受け、藍根に会わぬまま京都へ戻る。
茜は藍根の絵に対抗して、父の絵を真似るが、父の弟子 草紫(そうし)に諌められる。
再び藍根に会うため、金沢へ向かう茜。そこで、藍根が絵を捨てて芸妓になるつもりであることを知る。
茜は、藍根に絵を続けるように勧める。
京都に戻った茜は、藍根をモデルに作品に取り組む。だが、その茜の元に藍根の訃報が。
風にとばされたスケッチを取ろうとして、事故にあったのだという。
茜は悲しみにくれながらも、作品を完成させる。
茜の作品が展示される日、会場に藍根の絵が届く。
それは、茜が描いた秋の神 竜田彦と対になるような春の女神 佐保姫の絵であった。
花郁悠紀子の故郷金沢の風物も堪能できる傑作。茜と藍根、春と秋ふたりの娘の対比が実に鮮やか。
もし私が作品集を編むのなら、ぜひこれを入れたい。
藍根には生きていて欲しかった。
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最終更新日:2005/05/09