注:作品名をクリックすると、各作品の紹介にジャンプします。
なお作品紹介では、結末までのあらすじを記してありますので、未読の方はご注意ください。
花と宝石をテーマにした連作集。
表紙裏の作者の言葉によると、
「花と宝石を描きたくて、こねまわした結果できた作品たちです。
この本のタイトルになっている『夢ゆり育て』にだけ、宝石がからんでいないのは、
一番初期の作品のため、描いた当時、宝石の事をまだ考えていなかったかららしいのです。」
花を愛した作者の資質が最も良く現れた作品集。
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母に会うため、ゆりの花の咲く館へやってきたウォリス。だが10数年ぶりに会う母は、自分に息子がいることすら覚えていなかった。
恋人から引き離されて、ウォリスの父に嫁いだ母は、ウォリスを身ごもっているときに窓から落ち、精神錯乱に陥ったのだ。
落胆するウォリスは温室で、母の子供だというリースという不思議な少女に出会う。
ウォリスは、執事に母の恋人とリースのことを問い出すが、執事はリースという少女は実在するはずがないという。
ウォリスは、母に現実を見つめるよう詰め寄り、嵐の近づく庭園でリースとウォリスは対決する。
母は現実を思い出し、落雷で炎上する温室と共に"夢のゆり"リースは消えていく。
個人的には花郁悠紀子の最高傑作のひとつではないかと思っている。
花郁悠紀子版『レベッカ』というような雰囲気があるが、人間を "あっち"の世界へ引きずり込もうとする植物というのは、中井英夫の影響があるのではないかと思われる。
(佐藤史生の追悼文に花郁悠紀子が「SFと、日本耽美派作家(?)」に凝っていたという記述があるから、多分、中井英夫は読んでいたはずだ。)
主人公までもがあやうく"あっち"にいってしまいそうになるところが、なかなかです。
画面を埋め尽くす花々は、単なる装飾ではなく、生きている。
財産のっとりを企む親類たちに、火事で行方不明だった堅原家の跡取り娘の身代わりとして連れてこられた"るり子"。
堅原家の長女には、代々「炎の薔薇」というルビーが譲られるのだという。
彼女は、エナ・ハークネスという名の紅玉のような薔薇に囲まれた屋敷で、兄だというゆいと会う。ゆいの言動は不安定で、薔薇の花が母だといっては、笑う。
親類たちにゆいをまるめこんで、財産を譲らせるよう命令された"るり子"だが、彼女は次第にゆいに心ひかれてゆく。
真実を告げて屋敷を去ろうとする"るり子"を留めるため、ゆいは"るり子"に財産を譲る。
喜ぶ親類たちだが、実は"るり子"は執事沖田の娘で、財産を狙う親類たちの悪事を暴くために送り込まれたのだった。
ゆいに詫びる沖田に対し、彼はさらなる事実を知っていることを告げる。沖田の娘が、火事で行方不明になった本物のるり子であること、そして彼女が沖田とゆいの母の間の子であること。
つまりゆいとるり子は兄妹であると。
るり子は、沖田の娘のままでいたいと、ゆいの目の前で権利書を破り捨てる。そんなるり子にゆいは、もうひとつのタネあかしをする。
ゆいの母はエナ・ハークネスという名の英国人女性であり、ゆいとるり子は血の繋がらない兄妹であることを。
これも私の大好きな作品。薔薇の花とルビーの組み合わせが、中井英夫の『虚無への供物』を彷彿させます。
薔薇の赤、ルビーの赤、火事の炎の赤、さらにゆいの目と髪が赤みがかっているという描写もあって、
タイトル通り「紅」づくし。作者はひとつのテーマを細部まで揃えるのが好きだったようです。
(京極夏彦みたいですね(笑)。生きてらしたら、京極作品気に入っただろうな...)
洒落たサスペンスコメディで、舞台劇か2時間TVドラマにでもしたら面白いんじゃないかと思います。
マーガレットの花が咲き乱れ、野生馬が走る海辺の施設へやって来たマーリィ。
彼女はそこで、両親を殺され心を閉ざした少年キリオンと出会う。二人は次第に心を通じあわせていく。
ある日、浜辺に一人の男が流れ着く。彼の名はスタンレー。マーリィを追ってきた男。
マーリィ―マルガリテース・レベーはギリシャ高官の娘で、クーデターの際、スタンレーの兄を殺して逃亡していたのだ。
スタンレーは、マルガリテースを逃がすため、わざと狙いをはずして発砲し、彼女に撃たれる。
その場に留まろうとするマルガリテースに、キリオンは言う。
「いって!!逃げてよ。死んじゃいけない。ぼくがあなたを追いかける」
マルガリテースは、野生馬の群れの中を駆け抜けて去っていった。
ギリシャ語で真珠はマルガリテース、マーガレットのこともマルガリテース、そしてヒロインの名前もマルガリテースというお話。 マーガレットと真珠がテーマだが、さらに波頭と野生の白馬まで加わるので、「白」の印象が非常に強い作品。 海と白い花、白い馬、金髪の少年。モノクロの画面なのに、なぜか色を感じさせる、洋画のような作品。
青年アドルファスは、祖父をなくした少年パーシスを、虹婦人と呼ばれる社交界の花形フェオドラに引き合わせる。
パーシスは、フェオドラに引き取られ、彼女の養女であるルシンダの世話をすることになる。
アドルファスとその姉イリスは、かつてフェオドラの父に引き取られ、彼女と共に暮らしていた。
フェオドラは、イリスを愛していたが、イリスは彼女を裏切ってバートラムという男と駆け落ちしたのだ。
そこで、彼女はイリスに良く似た少女ルシンダを探し出し、今度こそ自分にさからわないよう人形のように育てていたのだった。
人間として扱われないことに嫌気がさしたパーシスは、フェオドラの元を逃げだそうとする。
自分に逆らうものは許さないフェオドラは、パーシスを撃とうとして、アドルファスに咎められる。
実は13年前、駆け落ちしたバートラムとイリスを見つけ出し、撃ち殺したのは、フェオドラだった。
アドルファスは、フェオドラの罪をあばき、ルシンダと、イリスの本当の子供であるパーシスを連れて屋敷を出る。
イリスから奪い取ったオパールの首飾り以外のすべてを失ったフェオドラは、自ら命を絶つのだった。
今回のモチーフは、アイリス、オパール、虹です。
少女漫画としては、凄い人間ドラマですね。ややこしい構成なので、あらすじをまとめるのに苦労してしまいました。
これもまた昔の洋画の雰囲気を持った作品。フェオドラという女性が非常に印象深い。
こういう女性が出てくる作品をカラーで載せちゃう70年代後半の漫画雑誌って偉かったと思います。
少年が青年に語るのは、実をつけるため主を殺す花柘榴の逸話。
青年は、少年に婚約の報告をしにきたのだが、青年を愛する少年は、彼をそのまま帰そうとはしなかった。
実をなせぬ花柘榴の恋の逸話そのままに、少年は、青年の死体を柘榴の根方に埋めるのだった。
わずか12ページの小品ながら、柘榴をモチーフにきっちりまとまった作品。 "よこしま"な耽美物が好きな方の中には、これが一番という人もいるのでは。
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最終更新日:2005/05/09