注:作品名をクリックすると、各作品の紹介にジャンプします。
なお、現在コミックス入手が困難なため、作品紹介では、あえて結末までのあらすじを記してあります。
作者の没後に刊行された作品集。日本を舞台にした作品が収録されている。
「百千鳥」は、「春の花がたり」(『四季つづり』収録)の前日譚。
「百の木々の花々」は、「不死の花」(『幻の花恋』収録)に登場する錦木三兄妹の百枝を主人公にしている。
シリーズとしてもう一作描かれる予定だったという。
「緑陰行路」は、商業誌に描かれた最後の作品である。(絶筆は、合作『兄弟仁義』)
秋田書店から刊行されたコミックスは、これが最後の巻となる。
未発表作品を含めた、ほぼ全作品が単行本として刊行されるというのは、
当時『プリンセス』編集部が、いかに花郁悠紀子を高く評価していたかの証明であろう。
また、この後も、『ビバ・プリンセス』誌上に「アナスタシアのすてきなおとなり」「マーガレット荘の老夫人」などが再録された。
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「白木蓮抄1 ―白い風―」
5歳のりよは、母が病気療養のため、親戚の宮谷の家へとやってきた。
ある日、家の中が騒がしくなり、りよは外に遊びにやらされた。
ピアノの音に誘われて迷い込んだのは、白い花の下、白馬が繋がれた洋館だった。
館から出てきた金髪の青年は、りよを白馬に乗せてくれる。
この館を建てた人物の友人だというその青年は、国に帰って戦争に行くのだといった。
生まれて初めて人との悲しい別れを経験して家に帰ったりよを待っていたのは、もうひとつの別れ、母の死だった。
翌年の12月、日本も戦争に入り、りよの父は出征し、もどらなかった。
「白木蓮抄2 ―白い花―」
りよが女学生になった頃、洋館に人がやってきた。病弱な栄と彼の身の回りの世話をする少年志鶴。
栄は、いつも志鶴に辛く当たり、りよは二人の関係が理解できないながらも、志鶴に同情し、ほのかな想いを寄せる。
だが、ある日洋館を訪ねたりよは、志鶴に取りすがる栄と、それを冷たく笑う志鶴の姿を見てしまう。
志鶴の「裏切り」にりよは傷つく。
栄が逝ったのは、それかれひと月もたたないうちだった。
「白木蓮抄3 ―白い火―」
大学にいっていた、りよのいいなづけである宮谷の息子武史が戻ってきた。
りよは、武史に対する自分の気持ちを扱いかねていた。
同じ頃、白木蓮の洋館にも一人の老婦人がやってきた。かつての舞台女優 橘美咲紀である。
美咲紀は、りよと同じ年頃の一人娘を手放していた。母のない娘と娘を手放した母は、心を通じあわせる。
ある日、美咲紀の元に美咲紀の娘まりえの訃報が届く。絶望し、大切にしていたすべての舞台写真を燃やして、
死を覚悟する美咲紀。りよはその場に行き合わせ、必死に彼女を思い留まらせようとする。
「...死んじゃ...いけません....」「なぜ...もう私にはなにもないのよ。なぜ?」「それでも...それでも、生きていかなくちゃいけません。死んじゃいけません.
死んじゃいけません。死んじゃいけません、お母様」
写真がもえて舞いあがり、まるで、木蓮がいっせいに炎になったように見えた。
その後、美咲紀は、洋館をりよに残して外国旅行にで、翌年、りよは武史と結婚した。
白木蓮の咲く洋館を舞台に少女の成長を連作形式で綴った作品。これもまた、花郁悠紀子の代表作のひとつに数えられると思う。
わずか50ページの作品ながら、主人公のりよの成長だけでなく、「白い馬」の金髪の青年の人生、
「白い花」の栄と志鶴という愛憎のからみあったふたりの少年の関係、「白い火」の橘美咲紀の人生と、
様々な人々の人生を切り取って見せてくれる。
最後の「白い火」のクライマックスの「それでも...それでも、生きていかなくちゃいけません。」の一言は重い。
小説家の車折舟(くるまざき しゅう)は、結核の療養のため高原の別荘へやってききた。そこは、妾の身であった母と過ごした思い出の地であった。
花の谷で、舟は杳(はるか)と出会う。不仲の妻との確執に疲れ果てた舟は杳と結ばれ、杳は身ごもるが、実は杳は舟の異母妹であった。
杳が妹だと知った舟は、妻子とも杳とも会わぬまま、別荘に暮らす。杳は息子を残して逝き、月日は流れた。
手伝いの少女の噂話をきっかけに、舟は、花の谷へと赴く。
そこで、杳が遺した息子翔(しょう)と会った舟は、翔と娘の櫂(かい)とともに暮らすことを決意する。
この幸福な終わりのつづきが「春の花がたり」なんです。ああ...。
この作品のラストで、舟が一緒に暮らすことを決意したのは「妻と娘の櫂」ではないかというご指摘を受けました。
どうもそのあたり、作品からは、はっきりとはわかりません。
私は「春の花がたり」で、舟さんの奥さんがでてこなかったので、てっきりもう亡くなっているのだと思い、
翔を認知して3人で暮らすのだと解釈したのです。
でも、「百千鳥」では、杳の死は描いてあっても、舟の正妻の死は描かれていないので、奥さんは健在で、舟さんはヨリを戻すために東京へいったのかもしれません。
錦木百枝の父は、能楽師 錦木流の宗家。ある日、知らないうちに見合いの席に出させられたと知った百枝は、
しきたりだらけの能楽の世界に反抗することを決意、級友たちの協力で髪をカールし、イメージチェンジを計る。
家の近所で知り合った青年とディスコへ行き、「やりたいことやるんだ」と、息巻く。
一方、錦木家の次男 千尋は、能楽師になることをやめ、考古学の道に進むことを兄妹に伝える。
百枝と再び出会った青年は、外出先で倒れる。彼は、将来を嘱望された滝流能楽師 須磨経四郎で、
滝流宗家の娘の恋人でもあったが、病のために、滝流を出た男だった。
経四郎は、百枝の兄 万里に舞いの立ち会いを申し込む。万里と共に「胡蝶」の舞いを舞った後、
経四郎は、恋人玲子とともに去る。
結局失恋した百枝だが、「もっと良い男が山ほどくるさ」という兄の言葉に「うん...そのへんは私も期待してる」と
肯くのだった。
錦木三兄妹の末っ子百枝の物語。長男の万里は、「不死の花」の主人公でした。
ですから、もう一作描かれるはずだった作品というのは、ちょっと遊び人の次男 千尋の物語だったはずです。
なお、錦木三兄妹の名前は、万里(まさと)、千尋(ちひろ)、百枝(ももえ)ですが、お父さんの名前は、雅臣。
「億」とか「一」がつくわけじゃないんですね。
それにしても、美形の兄は二人もいるし、見合いの相手の要さんは地味だけどいい男(見合いを断られた後も、鼓を教えてくれるらしい)だし、
百枝ちゃん、実にうらやましい環境です。
『リュウ』の特集によると、描かれるはずだった続編は『鬼花舞い』というタイトルであったようです。
木々のトンネルを抜けると、かつて大学生相手の下宿屋をしていた「緑陰館」あるいは「木の間館」と呼ばれる建物がある。
美大生の綾子(りょうこ)は、その家のひとり娘である。ある日そこに胡場 巽(こば たつみ)という青年がやってきた。
下宿屋はやめたという綾子の両親を丸め込んで、彼は「緑陰館」に住み込む。
かつての恋人志賀が忘れられない綾子だったが、次第に巽に惹かれていく。
綾子は巽の部屋で、志賀の死亡通知を見つける。巽は、怪我をサナトリウムで療養しているときに志賀と会い、
綾子のことを聞いていたのだった。
巽の話を聞いて、立ち直る決意をした綾子は、木々のトンネルを抜けて、巽とデートに出かけるのだった。
現代日本を舞台にした軽めのラブストーリー。
綾子が緑陰のトンネルをぬけて、「ではいってみよう」と巽と一緒に出かけるシーンで終わるこの明るい作品が、
商業誌に描かれた花郁さんの最後の作品だというは、ある意味では良かったといえるかもしれません。
「春の花がたり」のような悲しい作品が最後の作品だったりしたら、なんだかやりきれないですものね。
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最終更新日:2005/05/09