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「特別対談:夢枕獏×氷室冴子 ヤングアダルト小説の現在・過去・未来」

原稿No.200204-04

[Aliログ][更新情報]

Last Update: 2004-06-27 02:40:54

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「特別対談:夢枕獏×氷室冴子 ヤングアダルト小説の現在・過去・未来」

『花とゆめ増刊 小説花丸』1号(白泉社,1991年11月1日発行)に掲載された、「特別対談:夢枕獏×氷室冴子 ヤングアダルト小説の現在・過去・未来」より一部抜粋して紹介します。
1991年8月当時のティーンズ向け小説の状況がよくわかります。

バブルが弾けたとはいえ、出版業界に不況の波がくるのはもう少し先(おそらく1994年ごろ)なので、「当たれば何十万部いく」なんて話もでてきます。「今だと20万部とか30万部出さないとヒットにならないから、5万部10万部の作家は昔ほどめぐまれなくなっちゃった」という編集部からの発言もあって、要するにそれだけ平均的に売れていたってことですね。

ここでは特に興味深かった「小説とイラスト」について語られた部分を抜粋してみます。

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対談より一部抜粋−「小説とイラスト」

氷室
『花丸』って、どういう雑誌を目指しているの?
編集部
小説誌をやる以上は、とりあえずイラストに負けない小説を目指したいなと、思っています。
氷室
それは言えてる。ただ、私はコバルトをやっているせいもあるんだけど、総合評価としての面白さってあると思う。イラストが入って、コミック的な展開って、私たち、マンガ読んでる人間には通用する表現じゃない。(中略)若いうちじゃないと書けない小説かなとも思うんだけれども、非常にコミック的なのが、イラストとの相乗的効果になっているのよ。で、面白い。
編集部
そういうのが受けてますよね。
夢枕
今の編集側からの発想で感じたのは、もうイラストって絶対に必要なものって考えてるじゃない。でも本来、小説ってイラストは関係ない世界だったわけでしょ。おれなんか『イラストは誰にしますか?』って言われても、作品によっては、忙しいときなんか、誰でもいいや、という感じがあるわけよ。(中略)むしろ、イラストいらないとさえ思う話もある。ぼくはね、マンガとアニメの線のイラストは、自分の小説のイラストとして考えたことないの。マンガはマンガとして面白いんであって、マンガであそこまで小説のキャラクターをはっきり書かれたらぼくは困っちゃう。
氷室
私も。だから私たちは古いのよ。最近の22、3歳の若い書き手だと、イラストはこの人ってはっきりあるって。

(略)

編集部
SF読んでいくときに、僕はイラストの影響ってあったんですよね。バローズの『火星シリーズ』とか。
夢枕
あれはそうだね。おれもイラストがなければ読んでいなかったな。

(略)

夢枕
でも根本的に違うのはさ、売れちゃったという結果はあっても、はじめからイラストで売ってやろうとか、発想したときにはたぶんなかっただろうってこと。
氷室
今、イラストは、小説のマーケティングを含めた、一個の作品として完結するときの、二割ぐらいの重みはあるわよ。だから、小説を愛するがゆえだけど、ヴィジュアル世代を考えたときに、イラストに負けない、という言葉がでちゃうんじゃない?

(略)

編集部
獏さんの場合もイラストでやってきたって感じじゃなくて、ちょうど端境期だったんですよね。
夢枕
小説のイラストってキャラクターを決めない、雰囲気っぽいものを要求された時代ってあったじゃない。でも、今は、マンガっぽくキャラクターをはっきり描くよね。コバルト系とかさ。
氷室
昔、久美沙織さんが、小説を書くときにイラストを描くマンガ家も決めて、プロデューサー的にやりたいって言っていたんだけど、それをマーケット理論と合体してやったのは花井愛子さんなの、それで少女マンガのイラストつければ売れるって神話ができちゃって、また、ある程度当たってたのね。(中略)だけど、たぶんこの先は揺り戻しが来ると思う。たとえば、前田珠子ちゃんは完全なファンタジー系の作家で、シチュエーションやキャラクターもあるけれど、どちらかというとドラマツルギーで押していく人なのよ。それも非常に読者にも共感がある。X文庫だと、文章がウマい井上ほのかさんだとか、今、そういう形で拡散の方向に行っているのよ。SFでいえばさ。
夢枕
浸透と拡散、なつかしいなあ。
氷室
だから、90年代はヤングアダルト的な小説世界とか、これだけが主流ってなくなると思う。いいことよ。

『花とゆめ増刊 小説花丸』1号(白泉社,1991年11月1日発行)pp.135-138

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コメント

この頃から、マンガとアニメの線のイラストの相乗的効果や、メディアミックスの考え方が出てきたのだと思います。
「イラストは二割ぐらいの重み」という発言がありますが、2003年現在はもっと高くて半々ぐらいでしょうか? 既に小説家よりイラストレーターで売るという風潮になっているのではないかと思います。

コバルト文庫では、1984年に久美沙織がめるへんめーかーと組んで『丘の上のミッキー』を出したころには「あまり漫画漫画した絵にされると困る」というようなことをいわれたらしい(2012/03/01追記:日経BP社から出た『ライトノベル完全読本 Vol.2』p.82に記述あり)のですが、花井愛子が売れた1988年以降は少女マンガ風イラストがほとんどになりました。([コバルト文庫のイラスト]参照。)

氷室冴子のいう「揺り戻し」が来たかどうかは定かではありませんが、一人称で改行が多い恋愛小説がほとんど姿を消したのは事実。
ここで、井上ほのかではなく小野不由美の名前が挙がっていたら、予言が完璧に当たったといえたのですけれどね。

(2003/10/03)

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追記

White Castle2003/10/16付けの日記】で、上記コメントへのご意見をいただきました。

  • ボーイズラブ小説には「一人称で改行が多い恋愛小説」が残ってます
  • 1991年の時点では、小野不由美はそれほど注目されていなかったと思います

とのこと。

「ボーイズラブ小説」は「恋愛小説」であるといわれて、目からウロコが。
それに気がつかなかったという事実が結構ショック。

(2003/10/19)

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