コニー・ウィリス『航路』ネタバレ感想

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コニー・ウィリス/大森 望訳『航路』上下(ソニー・マガジンズ ,2002.10,各\1,800+税)の内容に詳しく触れていますので、未読の方はご注意ください。

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コニー・ウィリス/大森 望訳『航路 上巻』
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(ソニー・マガジンズ ,2002.10,\1,800+税, ISBN4-7897-1933-2)
 ISBN4-7897-1933-2

コニー・ウィリス/大森 望訳『航路 下巻』
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(ソニー・マガジンズ ,2002.10,\1,800+税, ISBN4-7897-1934-0)
 ISBN4-7897-1934-0


最初、ジョアンナとリチャードがカップルになるロマンチック・コメディなのかと思ったら全然違いました。あの二人の間にはフレンドシップもパートナーシップもあるけれど、恋愛はない。多分。

半分ファンタジーだと思って読んでいた(基本的に私はたいていの小説をファンタジーモードで読む)ので、ジョアンナが死んでも別にあまり驚かず、リチャードが「連れ戻し」に行くのは当然だと思ったのですよ。(ファンタジーじゃ、死んだ人や死にかけた人を連れ戻しにいくのなんて、よくあることだから。)

もちろんいくら半分ファンタジーとはいえ、リチャードが直接的にジョアンナを「連れ戻す」とは思っていなかったんですが、何らかのヒントを得て戻ってきて蘇生させるとかして、なんとかつじつまをあわせるんじゃないかと期待していたのです。
そしたら生き返らなかったので――驚いた。
「二時間」というのは、私のような読者にも蘇生は絶望的であると分からせるために設定された時間なんでしょうな。

で、【大森望】さんのサイトの【『航路』ネタバレ掲示板】の他の人の感想を読んで、他の人(主としてSFの人)との読み方の差に愕然。
そうか、みんなは「生き返ると思って」読んだりはしないんだ。ちなみに私の書きこみは以下の通り。

読了しました
2002年10月8日 20:59:43 有里 WEB

4章までは1時間弱、残りは8時間で読了。
わたしはぜったい泣かないもんねーと思っていたのに、
ちょっと泣いてしまいました。ああ、くやしい。

>●タイタニックでびっくりしましたか?
あまり。なるほど、宮部さんの帯は、こういう意味かと思った。

>●ジョアンナが死んだときはびっくりしましたか?
死んだときは驚かなかったが、生き返らなかったので驚いた。
ずっと期待してたんだけど、葬儀あたりで諦めた。

>●あの結末はどうですか?
それなりにハッピーエンドだと思う。
しかし、なんで最後に出てくるのが、あの船なのか。

リチャードが「連れ戻し」に行くのは当然だと思っていたので、【大森望】さんや【Arte】さんが、なぜそこで「一番驚いた」のかが、わかんなかったのですが、「科学者がトンデモに転ぶ」からなんですか。そうかー。
私ってリチャードのキャラクターをちゃんと「読めて」なかったんだな。

これを書いたときには【新・大森なんでも伝言板】を読んでいなくて「●あの結末はどうですか?」の質問の意図を把握しかねていたので、最後は少々トンチンカンな回答かも。

生きている人たちにとって、それなりにハッピーエンド。死んでいく人にとっても、それなりにハッピーエンド。したがって、読んでいる私にとってもそれなりにハッピーエンド。でも、悲劇が嫌いだというアメリカ人向けにしちゃ、結構シビアなところに着地したなとも思いました。(思わず著者プロフィールで、米国人かどうかを確認しちゃったほど)

死に行く人の頭の中の出来事だと思って読んだから、ファンタジーというかスーパーナチュラルな結末だとは思いませんでした。逆に、コニー・ウィリスってファンタジーな人じゃなかったのねと思いましたです。

「なんで最後に出てくるのが、あの船なのか。」というのは、コニー・ウィリスを出してきたのが、沈まなかった船ではなく沈んじゃった船なのが不思議だったから。ヨークタウンよりユリシーズ号(「女王陛下の」ではなく、トイレ壊されたけど沈まなかった「銀英伝」の船)みたいな船のほうが相応しいんじゃないかと思ったので。

で、大森さんの以下の書き込みを読んで、びっくり。

ちなみにいちばん最後のジョアンナのセリフは、ミスター・ウォジャコフスキーの上巻168ページのセリフの引用です――っていうのはみんな気づくんでしょうか。宮部さんはそこがツボだったみたいだけど。
『航路』ネタバレ掲示板】 「>>有里さん」2002年10月8日 22:40:01 大森 望

全然気がつきませんでした。
ってゆーか、ウォジャコフスキー爺さん、しゃべりすぎ! エピソードがありすぎて覚えきれません。三日で修理した船だってのは覚えてたけど。

そして、【鈴】さんの「最後のページのヨークタウンのアンテナ(?)に光が反射するところとか、「3日でよみがえる」とか、「もろキリスト教じゃん」と思ってたんですけど」という書きこみを見てさらに唖然。「三日で甦った」も十字架も読み飛ばしてましたよ。

なるほど、だからヨークタウンを選んだのか。

キーワードである「メタファー」が、最初はルビなしの「隠喩」「直喩」、次にルビつきの「隠喩(メタファー)」「直喩(シミリー)」になって、最後にはカタカナの「メタファー」で統一されるのは『ドゥームズディ・ブック』[→紹介感想] のときと同じですね。

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By 有里 alisato@anet.ne.jp
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