原稿No.200203-01
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京フェス'99の「ヤングアダルト総括」を受けて、【林哲也さんの不純粋科学研究所】では、「オタク系ヤングアダルトの起源」を探るプロジェクトが発動しています。
関連する日記記述は、【1999年12月5日】、【1999年12月12日】、【1999年12月15日】あたり。
とある理由で昔のファンジンをめくっているうちに面白いことに気づいた。「SF FILE 1988」(中学交)の年度回顧対談中に、「ヤングアダルト」及び「YA」という呼称が出てくるのだ。ひょっとして、ファンジンをチェックする事で「ヤングアダルト」という呼称が成立した時期(正確には、角川スニーカー的なるものに対してヤングアダルトという呼称が用いられた時期、以下同)を推定できるのではないだろうか。「SF FILE」は年度毎の刊行である上、「SF FILE 1987」は「1988」と同時刊行であるため、チェックの役に立たないが、幸い手元に、同時期の「MILK SOFT」(名大SF研)が揃っている。これをチェックしてみれば、もう少し細かい事がわかるかもしれない。
というわけで88年〜89年の「MILK SOFT」を調べて見たところ、見事境目を見つける事ができた。88年9月〜11月である。
88年11月29日刊行の「MILK SOFT 89」には「草上仁はCPやYAについていけない僕をSF離れから救ってくれる」という文章がある。しかるに、9月2日刊行の「MILK SOFT 87」(10月24日刊行の「MILK SOFT 88」には間違いなく「ヤングアダルト」という単語が使われるであろうという場面が無い)では、『聖エルザ・クルセイダース』に『魔獣戦士 ルナ・ヴァルガー』という、ヤングアダルトに分類される事を疑う奴は誰もいないだろう作品がレビューされているにもかかわらず、「ヤングアダルト」という単語はどこにも出てこない。また、ここから10号ほど遡ってみたが、「ヤングアダルト」という単語を使った例はないようだ。名大SF研内で「ヤングアダルト」という言葉が認知されたのは上記88年9月〜11月の期間だと考えて問題はないだろう。先日の京フェスでは、「ヤングアダルト」は89年頃に「小説 奇想天外」(大陸書房)のレビューなどで用いられるようになった(後日戴いたメールによると89年頃からクローズドな場で使い始め、若干遅れて書評家デビューしてから雑誌などで使い始めたのだそうな)とされていたが、もう少し早い時期から登場していたらしい。
【雑記 1999年12月5日】
先日の「ヤングアダルト」という呼び方の登場時期問題について、その道の専門家、三村美衣先生からメールを戴く。内容は、
・朝日新聞では87年から「ヤングアダルト招待席」という書評欄がはじまっていた
・氷室冴子などは、そこでヤングアダルト分類を受けていた
・一部児童文学書評系では(抵抗を感じつつ)ヤングアダルト分類を使っていた
・ただ、SFの世界ではまだジュヴナイルという言葉が一般的だったと思う
・三村美衣、尾之上俊彦を含むグループがヤングアダルトという言葉を使いはじめた89年ごろの時点では誰も書評家では無かった。
・故にヤングアダルトという言葉がインナーサークル(SFセミナー、京フェスなど半オープンな場を含む)で使用されていた時期と、雑誌などに登場の時期はズレる
などが主なところかな。つまりは88年11月時点では、ヤングアダルトという言葉を角川/富士見的なる物に適用する例は、皆無ではないかもしれないがSFファンダムの内側では一般的とは言い難い(と思われる)状態だったらしい。
【雑記 1999年12月12日】
ヤングアダルト調査進行中。亀山さん(6)からは「ドラゴンマガジン創刊に前後してヤングアダルトという言葉を耳にしはじめたような気がする」という情報を得た。これは、88年11月末という時期と半年の精度で一致する。(中略)さらに加沢さんからは、起源の可能性としていくつか示唆を受けたのだが、その中に非常に気になる項目があった。
富士見かスニーカーのちらし
である。僕は、これが最も有力な候補なのではと疑っている。僕は名大SF研に入会するまで、これまで疑惑の対象となった「奇想天外」「SFアドベンチャー」「朝日新聞書評欄」「SFファンダム」のいずれにも触れた事が無かったのだが、入会時点でヤングアダルトという言葉を「スニーカー/ファンタジア的」という意味で使っていたように記憶しているのだ。91年時点で僕が触れていたメディアからすると、最も疑わしいのが角川・富士見の自称なのである。
ドラゴンマガジン創刊時(あるいは、スニーカー独立)で富士見ないし角川が「ヤングアダルト」を自称し、当時の若手ファンがすぐさまその言葉を取り入れ、ファンジン、コンベンションのパネルなどでファンダム全体に広まっていった、というのはさほど無理が無いシナリオだと思う。問題は、証拠だ。ドラゴンマガジンは名古屋に創刊時期のが取ってあるはずだから良いとして、88年当時のスニーカーのちらしなんてどうやって手に入れればいいんだろう。
【雑記 1999年12月15日】
林さんはリスト者なので、文献データに裏付けされたしっかりした考証が期待できると思います。今度の動向に注目。
昔の文庫ハサミ込みチラシは、ブック・オフへ行って該当文庫を片っ端から開いてみると、そのまま残っていることが案外多いものです。
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集英社文庫コバルト文庫Y.A.シリーズについて。
これは<ヤング・アダルト>とはいっても、「オタク系ヤングアダルト」ではなくて、サリンジャー『ライ麦畑でつかまえて』につながるような「晶文社系ヤング・アダルト」作品のことです。文庫表紙見返しの説明によればつぎのようになります。
《Y.A》
Young Adult Litereture の略
若者が直面するさまざまな問題をテーマに描かれたヴィヴィッドな現代アメリカ青春文学の総称。
(S.E.ヒントン『アウトサイダー』表紙見返し より)
私が確認できた限りでは、1983年2月発行のストラッサー『エンジェル・ダスト・ブルース』から1984年8月発行のロバート・タイン 『フットルース』までが、このY.A.シリーズの名前で刊行されています。1984年末ぐらいまでは海外翻訳物はY.A.シリーズとして出ていた可能性がありますが、1985年1月発行の『ベスト・キッド』にはY.A.シリーズの名前がついていません。
この手の海外翻訳作品でコバルトで出た最後の作品が、ロバート・コーミア『チョコレート戦争』(1987/08)。赤木かん子絶賛の名作で、その後扶桑社文庫で復刊したようです。
Y.A.シリーズとして出た主な作品をリストアップしてみます。
集英社文庫コバルトY.A.シリーズ
(多分抜けがあります)
あんまり売れなかったんだろうなぁと思います。解説目録を読むと凄いテーマが扱われているんですが、登場が早すぎたってことなんでしょうね。
たとえばこんなの。
リチャード・ペック 『レイプの街』
N.Y郊外の小さな町に住む少女ゲイルは平凡な少女。ところがある日彼女に無言の電話が…見えない影におびえ、ジリジリと追いつめられるゲイルを待っていた運命とは。
(『コバルト文庫 ’90解説目録』p.194 より)
発行は1983年7月。解説を読む限りではストーカー物のようです。しかしこのタイトルは……。
ミッシェル・モーリス 『朝のこない夜』
毎晩酒臭い息をふきかけながら、のしかかってくるパパ。幼女の時から父親に犯されつづけてきた少女カーラがたどりついた、汚辱にまみれた青春からの逃げ道とは?
(『コバルト文庫 ’90解説目録』p.196 より)
性的虐待物です。発行は1984年2月。この頃には既にこーゆーのが出ているわけですね。
もともとコバルトシリーズのもとになった『小説ジュニア』は、「いま愛と性に悩みぬくわたし『ひと夏の浜辺に”性の地獄”を見た!』」(文庫ハサミ込みのしおり裏の1979年8月号広告より)なんていう読者告白体験記が載るような雑誌ですから、こういった作品が文庫に入っていても不思議はないのかもしれません。
ただ、こういうのを「Y.A.シリーズ」と銘打って出していた手前、集英社は絶対にコバルト文庫やスーパーファンタジー文庫を「ヤングアダルト」とは呼ばないだろうなぁという気がします。
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「ヤングアダルト」という名称の来歴について、【林哲也】さんの【1月3日の日記】で新事実が明るみに! なんと『現代用語の基礎知識』に「ヤングアダルト」が載っていたらしい。続報を待つ。
東京に戻る途中、名大の部室による。ヤングアダルト調査の足しになるものを探そうと思ってよったのだが、ファンジンを眺めている途中でとんでもないものを見つけてしまった。1987年5月1日発行の「SF File 1986」に「ヤングアダルト対談」が載っていたのだ。
いやもう、87年である。88年11月ってだけでも早いって言っていたのに、87年の春だ。いったい何があったのか。とりあえず、本当に調査対象であるオタク系ヤングアダルトのことなのかを確認するため、内容を読んでみる。確かに、「ここ数年一応ジュヴナイルとされていたコバルト−ソノラマの中に、従来のジュヴナイルとは違うし、プロパーなハヤカワJAともちょっと違うものがでてきた」とあるので、SFゲットーで言うところのヤングアダルトと考えて間違いはないらしい。では、それをどう扱っているのか、と先を読んで2度びっくり。そこにはこうあった。
加沢:(略)ええと何だっけ、『現代用語の基礎知識』にはなんて書いてあったんだっけ?
水上:あれは確か、最近中高生向きのジャンルが力を増してきてどうのこうのとか、ソノラマ文庫とかコバルトシリーズとかが代表的であるとか、その程度のことしか……(略)
そう、87年春時点で、SFゲットー的定義にかなり似た定義が『現代用語の基礎知識』に載っていたというのだ。これを驚かずにいられようか。『現代用語の基礎知識』に載ったということは、86年時点で既にそれなりに使われていた用語だったということだろう。しかも、現在のSFゲットー内の用法にかなり近い意味で。しかし、どこで使われていたんだ?少なくとも、87年10月20日発行の「トーキングヘッズ」26号巻末特集「日本新人作家カタログ」では、「コバルト&ソノラマの新人」というコーナーがあるにもかかわらず、「ヤングアダルト」という語は使われていない。そうしてみると、SFファンダム全体で使われていた語ということも無いようだ。『現代用語の基礎知識』となると、そんな狭いグループの状況は判断材料にならないってのは確かだが、そんな狭いグループなんだから、語の共有くらいあったも良さそうだ、という思いもある。本当に、一体どこで誰が使っていた言葉なのか。真相はいきなり薮の中である。
2003/10/09追記:
『現代用語の基礎知識』に載っていた「ヤングアダルト」の件については、「2002.12.03 『現代用語の基礎知識』とヤングアダルト」を参照。執筆者は大森望さんでした。
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bk1で「ヤングアダルト」で検索をかけたら、『ヤングアダルト図書総目録 ’82』(ヤングアダルト図書目録刊行会)なんて本が出てきたので、少なくとも1982年には「13歳から19歳までを対象にした本」という意味での「ヤングアダルト」という言葉は使われていたようだ。
「ヤングアダルト」を冠した叢書には大和書房の〈ヤングアダルトブックス〉と晶文社の〈ヤング・アダルト図書館〉がある。でも「ヤングアダルト」という言葉の普及にもっとも貢献(?)したのはサンマーク出版の『これだけは知っておきたいヤングアダルト情報源』じゃないかと思う。
この話題が出たのは、2000年1月なんだけど、当時はまだ【bk1】がなかったし、【TRC】の検索結果はソートできないから調査できなかったのだ。ネットの検索は、3年でほんとに便利になりました。
中高生対象の絵付き小説=ライトノベル/ティーンズノベルの意味で「ヤングアダルト」が使われるようになった由来については、【林哲也】さんが【2000年1月】に調べている。続報は……どうなっていたっけ。
ところで、「ジュニア小説」という言葉は、どのあたりまでを含むのだろう? 少年向け小説は含まないのかな?
2002/11/28追記:
【とりイカ】の【京都SFフェスティバル2002・参加レポート】の「ライトノベルの部屋」の項にライトノベルとヤングアダルトについての説明がちょっとだけありました。司会をしていたのは、現役の大学生の人のようですね。
どっかにもっと詳しいレポートはないでしょうか。
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天気も良かったので、県立図書館まで出向いて「ヤングアダルト」の来歴について調査。ネットで下調べして調査する本をリストアップしていったので、サクサクと作業が進みました。
というわけで、『現代用語の基礎知識』に出ていたオタク系の「ヤングアダルト」について判明。掲載されていたのは1987年版で、ページ下の欄外に「最新SF話題学」というコラムがあって、そこに「ヤングアダルトSF」の項目がありました。執筆者は、牧真司さんと大森望さん。執筆者を見たときには、やっぱりこの人かっ、とココロの中でツッコミいれてしまったです。詳しくは次の項で。
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今回調査したのは『現代用語の基礎知識』1985年〜1990年版。
1987年版には「ヤングアダルトSF」という語が登場。
ただし通常の項目ではなく、ページ下欄外の「最新SF話題学」というコラムの一項目。このコラムについての解説は以下のとおり。
最新SF話題学 スペースオペラ物からヤングアダルトSF、バイオレンス物まで、最近のSF作品はますます多様化し、他のジャンルとの境界がなくなってきている。そこでこれらSF文学の最新話題や生活の中でたびたびお目にかかるSF用語、それに加えて内外のSF界の動き、映像分野のSFの動き、あるいはテレビゲーム、SFマンガからSFトイまでエンターティメントとしてのSF最新情報をあつめてみた。本書読者のレスト・ルームとしてお読みいただきたい。執筆者はSF評論家 牧真司、大森望。
(『現代用語の基礎知識 '87』p.564-565)
1987年ごろというのは「SFの夏」の時代だったので、『現代用語の基礎知識』にまでこういうコラムが登場したらしい。(どんな項目があるかもメモってきましたが、長いのであとで別ページにでも入れておきます。)
さて、問題の「ヤングアダルトSF」について。
SFの浸透と拡散によって、ジャンルが細分化され、中高生を対象としたSF小説も大きな市場を持つようになってきている。夢枕獏の〈キマイラ〉シリーズで当てたソノラマ文庫、新井素子を育てたコバルト文庫などがその中心といえる。
(『現代用語の基礎知識 '87』p.655)
中高生を対象とした本はヤングアダルト本、中高生を対象としたSFはヤングアダルトSF。で、ソノラマ文庫やコバルト文庫にはそういうヤングアダルト向けSFが多いよといっているのですね。間違ってませんね、図書館用語的にも。
イラスト入りであるとか漫画的であるとかそういった意味のことは全然書いていないんですが、いつからそういう意味まで含んでしまったのやら。
なお、「ヤングアダルトSF」が掲載されているのは1987年版だけでした。
ちなみにこの1987年版には、現代文芸用語として、「ジュニア小説」という用語が登場します。
ジュニア小説 吉屋信子らの活躍した大正から昭和初期、富島健夫や佐伯千秋らの活躍した昭和三〇〜四〇年代と、ジュニア小説にも歴史があるが、ここ数年来のブームには無視できぬ様相がある。書き手の第一人者氷室冴子の「ジャパネスク・アンコール」が象徴するように、日本語は記号と化している。一〇年来の少女マンガで育てられてきた世代の心を掴んでいるスリリングな内実は、考慮する必要があると憂慮する説がでている。氷室のほか正本ノン、久美沙織、田中雅美らが代表的書き手。
(『現代用語の基礎知識 '87』p.655)
解説の執筆は小田切秀雄。「日本語は記号と化している」とか「考慮する必要があると憂慮する説」とか意味不明ですが。1988年版まではこの解説のままのはずです。
1988年版〜1990年版には「外来語・略語」のページに「ヤングアダルト(young adult)」が掲載されています。ただ、その説明というのが……。
直訳すれば「若いおとな」だが、一般的には若さを保持しているおとなの意味。現代は脱年齢、つまりおとなと子どもの区別のない時代で、それを象徴して年齢不詳のおとなが多くなった。
(『現代用語の基礎知識 '88』p.1221)
「ヤングミセス」という語や20代前半の人間を対象にした『これだけは知っておきたいヤングアダルト情報源』にひっぱられましたかねといった解説。
2001年版の〔外来語年鑑2001年〕に掲載された「ヤング・アダルト(young adult)」の解説は、「10代後半の若者。20代前半を含む場合もある。」です。
〔現代文学〕の項目には、「ヤングアダルト本(Young Adult Book)」が、「13歳から19歳までのための本」という意味で掲載されています。
これら『現代用語の基礎知識』における「ヤングアダルト」の変遷については、以下のページにまとめました。
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「ヤングアダルト(Young Adult)」は、そもそもは第二次世界大戦後のアメリカの図書館界で使われだした13歳から19歳までの「若い大人」の利用者を意味する言葉でした。
半田 雄二/半田雄二論文集編集委員会編『ヤングアダルトサービス入門』 (教育史料出版会 ,1999.6,\1,800+税, ISBN4-87652-363-0)の「ヤングアダルトサービス私史」によると、日本の図書館界では、半田雄二氏が1980年に『図書館界』にヤングアダルトサービスについての論文を掲載し、本格的にヤングアダルトサービスに取り組みはじめたとのこと。
図書館界でヤングアダルトサービスが始まるのとほぼ同時期の1979年には、出版界でも晶文社など中高生以上の年代を対象に出版活動をしている版元がヤングアダルト出版会を組織して、フェアを開催したりといった活動をはじめたようです。
(2001年夏のフェアの参加出版社:青山出版社・あすなろ書房・偕成社・花風社・河出書房新社・国土社・旬報社・晶文社・地湧社・草思社・大日本図書・大和書房・東京書籍・童心社・西村書店・日本放送出版協会・白水社・評論社・福音館書店・ほるぷ出版・めるくまーる・立風書房・リブリオ出版・理論社(24社50音順))
1980年からは、「ヤングアダルト」「YA」を冠した叢書やヤングアダルト文学を翻訳したシリーズも出てきました。
岩波書店の〈あたらしい文学〉、 晶文社の〈ダウンタウン・ブックス〉〈ヤング・アダルト図書館〉、集英社の〈コバルトY.A.シリーズ〉、大和書房の〈ヤングアダルトブックス〉などです。
岩波書店の〈あたらしい文学〉、 晶文社の〈ダウンタウン・ブックス〉〈ヤング・アダルト図書館〉、集英社の〈コバルトY.A.シリーズ〉は、ティーンエイジャーが抱えた問題を描くプロブレムノベルのシリーズで、あんまり日本では受け入れられなかったようです。(需要がなかったわけではなく、日本においては、少女マンガがこの手の小説の役割を果たしていたからじゃないかと思うんですが。)
大和書房の〈ヤングアダルトブックス〉は、ノンフィクションも含んだ日本作家のシリーズ。
晶文社〈ヤング・アダルト図書館〉は、ミッキー・スピレーンが入っていたりして、なんだかよく分りません。アメリカのヤングアダルト向け叢書をそのまま持ってきたのかも。
1982年ごろから毎年『ヤングアダルト図書総目録』(ヤングアダルト図書目録刊行会)という目録が刊行されます。発行元のヤングアダルト図書目録刊行会は、出版界の業界団体であるヤングアダルト出版会が関係している団体のようです。
毎日新聞読書欄でヤングアダルト特集が組まれるのが1987年(?)7月1日。
朝日新聞の日曜版で赤木かん子氏と金原瑞人氏が1987年4月から「ヤングアダルト招待席」というティーンズ向けの本の紹介コラム開始。
この頃でも「ヤングアダルト」はまだ耳慣れない言葉だったようで、金原瑞人氏が当時を振り返って、次のように書いています。
新聞社側としては「ジュニアの本棚」というタイトルを考えているときいて、幹子が大反発。「ジュニアって、小学生じゃん! ヤングアダルトでいこうよ!」。出原さんは、むむ困ったという顔。当時、「ヤングアダルト」という言葉はまだ市民権がなく、なんとなくいかがわしい響きがないでもない……というのが新聞社側の意見だった。しかし出原さんがうまく調整してくれて、「ヤングアダルト招待席」という本の紹介欄が誕生した。いくつかの出版社が、「ヤングアダルト」という言葉を使ったことをとても喜んでくれた。いちばん嬉しそうだったのは、晶文社だったような気がする。社長がヤングアダルト出版会の会長をやっていて、とくに若者向けの本を出すことに力を入れていたから。
【児童文学評論:あとがき大全 6】
「ヤングアダルトSF」という言葉が登場する『現代用語の基礎知識 '87』の刊行は1987年1月(実際は1986年末か?)なので、執筆は1986年のはず。
ただし[『現代用語の基礎知識』とヤングアダルト]でも書いたように、これはヤングアダルト向けSFの意味であって、イラスト付き小説のことではありません。
(なお、大森望さんの【毎日新聞書評欄SF時評[90年6月〜92年3月]】には、「ヤングアダルト向け書き下ろし本」(毎日新聞書評欄SF時評 #03 90年08月)、「ヤングアダルト向け書き下ろし文庫・ノベルズ」(毎日新聞書評欄SF時評#12 91年05月)という表現は出てきても、「ヤングアダルト=イラスト付き小説」みたいな書き方はしていませんね。)
朝日新聞の書評コラム「ヤングアダルト招待席」で「ヤングアダルト」という言葉が一般に定着し始めようとする頃に、サンマーク出版から『これだけは知っておきたいヤングアダルト情報源』が出ました。大学生をメインにした若者向け情報リストですが、これが売れました。
その結果、ややこしいことに「ヤングアダルト」という言葉に「13歳から19歳までのティーンエイジャー」という意味のほかに「20代前半の若者」という意味まで加わってしまいました。
晶文社系の出版社は、「ヤングアダルト≒ヤングアダルト文学=プロブレムノベル」という使い方を続け、一方、SFファンダムの一部は、スニーカー文庫などのイラスト付き小説を「ヤングアダルト」と呼びはじめ(【林哲矢】さんの【雑記 1999年12月 5日】以降を参照)、非常に混沌とした状況に。
現在(2002年末)はというと、こんな感じ。
【YOMIURI BOOKSTAND:ジュニア館:「児童書卒業」の10代ターゲット ヤングアダルト小説が元気!】
ヤングアダルト=ティーンエイジャーの意味ですね。
1999年に「ヤングアダルト」を話題にしたときには、用語が揺れていたような気がしますが、森絵都の人気が出たりしたせいで認知度があがったんでしょうか。
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【ヒラマド】さんから12/9付けの日記で、『ヤングアダルト図書総目録』についての情報が。ヤングアダルト出版会が関係しているのは間違いなさそう。要するに出版界側が作っている目録ということですね。図書館界の人が作っているのか、出版界の人が作っているのか知りたかったので、とても参考になりました。
今は「ヤングアダルト」より「YA」という略語(?)を使うことが多いんでしょうか。やっぱり「アダルト」という言葉のイメージが悪いせいなのか。
「ヤングアダルト」という言葉に関しては、友人からこんなメールを貰いました。
ところで「ヤングアダルト」(笑)
完全に門外漢の私には、やっぱりいかがわしくひびきますね、今でも。
「アダルト」のせいで風俗的なイメージがあるし、
あとこのカタカナの組み合わせが、どうも、イカモノというかキワモノという印象。
この人は、古典文学は読んでもエンタティメント系はほとんど読まない(ボーイズ系はたまに読むらしい)人で、一般的な感覚としてはこんなものかと。
ネットで検索しても「ヤングアダルト」を和製英語だと思っている人がいるみたいだし、いちいち定義を説明するんだったら、半端にイメージが沸く言葉よりも、一見意味の分らない「YA」を使ったほうがいいのかもしれません。
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