匿名希望の Mさんからいただいたメールです (1999/11/05)
※ご本人から許可をいただいて転載しています。

和製ファンタジーの起源についての話題が盛り上がっているようですので、 ひととおり巡回しての感想というか意見をメールしてみました。

ターニングポイントの話について

角川さんのファンタジーフェアも確かに一つの区切りといえるでしょうが、 『DORAGON MAGAZINE』の創刊、のほうが一般への認知度のアップというか、 イベントとしては大きいのではないかと思います。 やっぱりね、専門誌が出るって、大きいですよ。 『ウォーロック』とかは、ゲーム誌ですし、それに、作り方が、 良くも悪くもマニア向けでしたから。 『獅子王』とかもありましたけど、あれって最初から定期刊行でしたっけ? (どっちにしろマイナーなイメージしかないんですよね) 初期の、アイドルにファンタジー系のコスチュームを着せた表紙とか、 これはこれで良し悪しの判断は分かれるのでしょうが、マーケットを拡大しようという 明確な意図が感じられた『DORAGON MAGAZINE』の創刊はかなりインパクトがありました。 (一応、個人的には、と断っておきましょう)

ルーツの話について

なんか、各種メディアの相関図を出している方がいらっしゃいますが、 具体例がないとわかりにくいんじゃないかと思ったので、 以下、とりあえず思いつく名前をあげてみました。 まあ、『扉をあけて』とかを無視するひとはいないと思いますが、 伝奇小説と分類されているらしい『帝都物語』(85)や、『吸血鬼ハンターD』、 『魔界都市 新宿』、『幻獣少年キマイラ』(このへんみんな81年ぐらい)あたりも 和製ファンタジー、ライトノベルのルーツを考える上では、無視しては通れないと 思います。『宇宙の皇子』(84)、『凄ノ王伝説』(83?)、『リーンの翼』(84) あたりもたぶん同じでしょう。(『魔界水滸伝』も) 『ウルフガイ』が何度目かの盛り上がりを見せたのもこの頃じゃありませんでした? (たぶん『幻魔対戦』が映画になった前後だと思うんですが) 映像作品からの影響とのからみも考えると、 アニメ―ジュ文庫が果たした役割も大きそうですね。 『シュナの旅』とか『永遠のフィレ―ナ』とか。 映像作品からの影響で言えば、『聖戦士ダンバイン』とかよりも、むしろ 『風の谷のナウシカ』(84)や『アリオン』のほうが大きいはずです。 (もちろん、TV作品か映画かという差だけでなく、です)。 『綿の国星』は……ちょっとちがうか。 『うる星やつら』も、『ビューティフルドリーマー』なんかはあげていいかと。 眉村さん原作で萩尾さんのキャラのタイムスリップものもありましたよね、 手元に資料があって書いているわけじゃないのでタイトルが出てこないんですが。 (タイムスリップものって、それがナルニアのタンスと同じ意味でしか 使われていない場合、ファンタジーと見てもいいと思いますから) OVAでも初期に『幻夢戦記レダ』とか『吸血鬼美夕』とかありましたよね。 『天使の卵』とかもね。 80年台末を「ファンタジー」とつけばなんでも売れる時代にしたという意味では、 『となりのトトロ』(88)と『銀河鉄道の夜』が与えた影響も大きいでしょうね。 洋画もね、『ハイランダー』、『ウイロー』、『ネバーエンディングストーリー』、 『ダーククリスタル』、『OZ』、『ラビリンス』、『エクスカリバー』、 『バンデッドQ』、『グレムリン』、『レディーホーク』、『キャットピープル』、 『インディジョーンズ』も入れといたほうがいいかな。 あっ、邦画にもありましたね『魔界転生』。『帝都物語』も映画になりましたし。 (なんか、時期がむちゃくちゃな気もしますが、いいんです、好きなんだから) 漫画だと、『妖精国の騎士』が86年から、『BASTARD』が88年、 『WINGS』の創刊が確か88年で、だから『源氏』とか『ドラゴンフィスト』も88年、 このへん、ルーツというよりも同時並行的にライトノベル的な作品が描かれてて、 『ジョジョの奇妙な冒険』、『闇のパープルアイ』、『はるか遠き国の物語』、 『アリーズ』、『おざなりダンジョン』、『聖伝』、『イティハーサ』、 『ヤマタイカ』、『日出処の天子』、『低俗霊狩り』、『カルラ舞う』、 『辺境警備』、『ピグマリオ』、『キャプテンキッド』、『人魚の森』、 あと、ドラゴンクエストの漫画化(ジャンプのと藤原カムイのと)もありますね。 石川賢の諸作品も、SFと言ってもいいんですが、ファンタジーと見てもいいかと。 逆にちょっと時期的にはずれますが、『イズァローン伝説』、『天よりも星よりも』、 『精霊使い』、『ダークエンジェル』、『KAZE』、『東京BABIRON』。 『彼方から』までくると新しすぎでしょうが。 その後のライトノベルに影響を与えてるんだろうなという意味では (最近では、『ベルセルク』なくして『ラグナロク』はありえなかっただろう、  みたいな関係。あれをエルリックの系譜で考えるよりは自然でしょ?) 『孔雀王』なんか、むしろルーツのほうかも。 ゲームの漫画化では、『ソーサリアン』、『イース』なんかは、時期も早いですし、 ルーツのほうかもしれませんね。 (『ラグナ戦記』、『アタゴオル物語』、あと岡野史佳の作品とかも好きなんですが、  この文脈だとあげないほうがいいかな? 『クリスタルドラゴン』、  『ダークグリーン』なんかは、開始時期は早いですが、長いですから、逆に  あげたほうがいいのかもしれませんが) 手塚治虫、萩尾望都、竹宮恵子、大島弓子などの全集が出始めたのも、大きいかな。 (もしかしたら漫画系からの影響ではこれが一番大きいかも) 『サイレントメビウス』とか、『超少女明日香』とか、『So What?』とか、 境界線上かな、とか思うのも多々ありますし、もろ超能力ものや、SF色のほうが 強いものは基本的に外したんですが、そのへんまで入れると、 逆に『BANANA FISH』(映画では『時をかける少女』とか)なんかの影響も 考慮しないといけなくなるでしょうし、全体像をつかむのは難しいでしょうね。 (遠因まで考えると、『ベルサイユの薔薇』とか『七つの黄金郷』とかもありますし。  架空歴史物という意味です、念のため) ちなみに、三国志の影響は、ゲームから直接ではなく、アニメ化されたことや、 『銀河英雄伝説』をフィルターにしたものだろうと、個人的には思っています。 もちろん人形劇の影響は無視できませんが。 『RPG幻想辞典』は86年ですが、87年には中山星香イラストの『妖精キャラクター辞典』 が出ていますし、サンリオの『フェアリー』の新装版が89年に出ているということは、 コンスタントに売れてたということなんだと思います。たしか、ボルヘスの『幻獣辞典』 もこのころ売れてましたし、『RPG幻想辞典』は特筆するほどではないかと、 これも個人的には思っています。 ゲームからの影響は、TVゲーム系では、『ドラゴンクエストIII』、 テーブルトーク系では、『T&T』と『ソードワールド』の登場が契機と見ています。

分類の話について

風間賢二さんの文章をベースにした私見ですが、 まず、ハイ・ファンタジーかロー・ファンタジーかという線引きについて。 いわゆるロー・ファンタジー  現実の(こちら側の)世界を舞台にしており、魔法的な存在・事象は異物である。  軽いタッチだと、日本のアニメの魔法少女ものはこの典型。  つまり、サブジャンルとして「エブリディ・マジック」を含みます。  シリアスタッチの場合も、例えば、異世界からの侵入者を水際で撃退する、  というスタンスの作品はここに含まれます。 いわゆるハイ・ファンタジー  異世界を舞台にしており、現実の(こちら側の)世界との関係は一切ない。  理想的には、登場人物は現実の(こちら側の)メンタリティすら持たず、  あくまでも、向こう側のルールで行動します。  「ハイ・ファンタジー」=「エピック・ファンタジー」ではありませんが、  「ハイ・ファンタジー」ではない「エピック・ファンタジー」を考えるのは  難しいでしょう。 ひとによってハイ・ファンタジーかロー・ファンタジーか意見が分かれるもの (私見では、ロー・ファンタジーですが)  異世界と現実の(こちら側の)世界と、扱う比率はどうあれ両方を舞台とする。  『アリス』にしろ『ナルニア』にしろ、現実の(こちら側の)メンタリティを  持った登場人物を異世界に送りこむ以上、分類上はここに入ります。  ……という言い方をする場合、ロー・ファンタジーと考えているわけですが、  「ハイ・ファンタジー」=「異世界ファンタジー」という考え方なら、  ハイ・ファンタジーになります。 あくまでも、整理する都合の問題なので、三つ目をハイと呼ぼうがローと呼ぼうが 実はどちらでもよいのですが……(三つに分けるという提案をすべきなのかな?) あとは各論になってしまいますね。 「エピック・ファンタジー」、「ヒロイック・ファンタジー」、「架空歴史物」の 三つが、やはり同じ分類クラスになって、 「ヒロイック・ファンタジー」を真ん中にして、 より神話的なものが「エピック・ファンタジー」、 より群像小説的なものが「架空歴史物」という感じでしょうか。 「架空歴史物」と「アナザーヒストリー物」は、このクラスでは同じ扱いになります。 SFよりかどうか、というのもパラメータのひとつではありますね。 「架空歴史物」と「アナザーヒストリー物」を分けるならこのパラメータですし、 『大魔王作戦』、『マジカルランド』、『パーンの竜騎士』とか、 SFとの境界ぐらいですから。 ホラーよりなものを「ダーク・ファンタジー」といったり、 日本や東洋が舞台のものを「伝奇小説(アクション)」というのは、 分類のための分類というか、そこまでしてレッテルをはらんでも、と思います。 「ダーク・ファンタジー」がありなら、その軸線の反対側には 明るい(コミカル)という意味での「ライト・ファンタジー」が欲しくなりますし、 舞台設定についてパラメータ化するなら、東洋的、西欧的の意味をきちんと 考えてからにしないとまずいでしょう。 (たとえば、建物や道具の形状、名称等を中心に判断するか、宗教観や自然観なのか) 「幻想文学」を扱うとすると、「SF」の軸の反対かなあ? 基本的に、比較的明確な線引きは最初の三つ(ハイ・ロー・?)以外できないという スタンスなのと、○○はファンタジーじゃないという言い方を極力しない (境界領域をあいまいにして、情報を網羅する)という姿勢なので パラメータ(軸)の設定という方法をとっていますが、 かえってわかりにくいですかねぇ? .

有里からの返信(一部抜粋)
メールを参考に年表作成してみましたが、いかがなものでしょう。 http://www2r.biglobe.ne.jp/~alisato/diary/etc/ft_lst.htm まだ年度が特定できないものがあって、不完全ですが。 ファンタジーをハイとローとその他に分類するというのは、納得です。 それ以外をわざわざレッテル付けをする必要はないのかもしれませんが、 私が一番好きなタイプの話である『光車よ、まわれ!』とか『9年目の魔法』の ような、どこかホラーがかったところのあるファンタジーをなんとか一言で説明 できる言葉はないものかなぁとも思うのです。

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