Virtual Book Store EREWHON-DO

本の感想:冲方丁

日記から抜粋した本の感想です。

本の感想 目次
著者名インデックス


[Home][エレホン堂]

冲方丁

「冲方丁」は、「うぶかた とう」と読みます。ニスイであってサンズイの「沖方丁」ではないので注意。(通常の辞書では変換してくれないと思うので、辞書登録しておくと吉)

公式Webサイト:ぶらりずむ黙契録(目次)

bk1で冲方丁を検索】 【bk1:冲方丁

冲方 丁 『微睡みのセフィロト』

表紙:419905104X

冲方 丁『微睡みのセフィロト』

出版者:徳間書店 徳間デュアル文庫
出版年:2002.4
価格 :\505+税
ISBN :4-19-905104-X

bk1/amazon/Yahoo!
bk1(02161168)

解説:

感応者(フォース)(超能力者)と感覚者(サード)(一般人)との戦いによって地球はいちど滅びかけ、現在は感応者と感覚者との共存の方法を探っているという世界で、花の香りをふりまく感応者の少女・ラファエルとダイハードなサイボーグ捜査官パットが超次元的能力者によって引き起こされた事件を追うSFハードボイルド。

パットは感応者側の兵器によって妻子を殺され、その憎しみを押さえるため電子的トランスで脳内にロックをかけているという設定。

あの石堂藍が『SFが読みたい! 2003年版』でベスト5に挙げていたので、読んでみました。石堂さんは徳間デュアル文庫には時々妙に甘いことがあるけれど、確かにこれは面白い。なんとなく雰囲気が《アダルト・ウルフガイ》シリーズを書いていた頃の平井和正を思わせます。

文章力描写力は圧倒的で、超次元的能力によって三百億個の微細な立方体に”混断(シュレディング)”された被害者(まだ生きている)の体に手が潜り込んでいくシーンなど、文章視覚化能力に欠けた私の脳裏にすらくっきりはっきり再現される生々しさ。すげー。
これでラファエルのキャラクターがもう少し立っていたら、もっと良かったのに。

超おすすめでございます。もう少し評判になってもいいと思うんだけど。

冲方丁は、前作『ばいばい、アース』を誰かががネットで絶賛しているのを読んで、ちょっと気になっていた作家。「うぶかたとう」と読みます。サンズイじゃなくてニスイ。でもbk1じゃ『 ピルグリム・イェーガー』bk1(02267810)】の原作者名が「沖方」になってたりするけど。
この人は、読みにくく記述しにくいペンネームやタイトルのつけ方で損してるんじゃないでしょうか。『ばいばい、アース』なんてセンスないと思うし、「冲方」って普通の変換じゃ出てこないし。
読み方をもう1度書いておこう。「うぶかたとう」の「まどろみのせふぃろと」です。

(2003/03/20)

[著者]うぶかたとう    :冲方 丁
[書名]まどろみのせふぃろと:『微睡みのセフィロト』

[Top]

冲方 丁 『ばいばい、アース』

表紙:4048732455

冲方 丁『ばいばい、アース 上』

出版者:角川書店 
出版年:2000.12
価格 :\2900+税
ISBN :4-04-873245-5

bk1/amazon/Yahoo!
bk1(01970883)



表紙:4048732463

冲方 丁『ばいばい、アース 下』

出版者:角川書店 
出版年:2000.12
価格 :\2900+税
ISBN :4-04-873246-3

bk1/amazon/Yahoo!
bk1(01970884)

解説:

『黒い季節』で第1回スニーカー大賞を受賞した冲方丁(うぶかたとう)の受賞後第1作。書下ろし2647枚、ハードカバー上下巻、税込みで六千円以上、厚さ上下合わせて7センチ。『航路』より厚くて高い!
こんな本を書くほうも書くほうなら、出版するほうも出版するほうだと思うけど、天晴れ、角川書店、よくぞ刊行した!
この作品を眠らせておく方が罪だ。たとえ馬鹿高いハードカバーでも、出版して読者に届けるのが正しい。

『ばいばい、アース』というタイトルをみて、多分SFなんだろうと思ってあまり注目もしていなかったのですが、実際に読んでみると華麗なルビ付き用語が踊る、きっちり作りこんだ世界観をもったファンタジーでした。もっとも、ある意味ではSFではありましたが。
最初に帯の説明を見たときには、ベルが旅人として諸国を巡るうちに自分のことを知るという(ありがちな)話かと思いましたが、全然違いました。旅に出た後ではなく、旅に出る前の話なのです。

いかなる種族の特徴ももたない少女ベルは、自らの由来を知り同じ種族に出会うことを望み、〈唸る剣(ルンデイング)〉を手に都市(パーク)へと向った。それは旅人(ノマド)となる試練を受けるため。
試練を受けるため、〈 剣の国(シュベルトラント)〉の剣楽士となったベルは、戦い赴きそこで、仲間とも呼べる者たちとであう。
だが、やがてベルは自らが都市(パーク)の神の法に矛盾する「理由(ことわり)の少女」であることを知る……。

プロローグで、〈水媒花〉に「さかな」とルビが振ってあるのをみた瞬間に、メロメロになりました。うっとり。そして、〈飢餓同盟〉という言葉には「タルトタタン」というルビが。
このセンスは古橋秀之『ブラックロッド』bk1/amazon/Yahoo!】(品切れかい……)の「機甲折伏隊(ガンボーズ)」のセンスに近いものがありますね。全くもってワタクシ好み。

プロローグからの一節を引けば、たとえばこんな感じ。

「あんたは! そうやって、いつも、誰からも必要とされない者になろうとするんだ」
「それが教示者(エノーラ)としての俺の宿命だ」
 ひっくとベルの喉が鳴った。かろうじて涙をこらえていた。
「……私も……あんたみたいな強さが欲しい」
「お前には必要ないさ」
 優しさに満ちた声。シアンはとうとうその剣を掲げた。レンゲ科の鋼鉄を美しく磨き上げた、色深く鮮やかな青燐色(ラピスラズリ)の剣だ。光と影の間で鋭く青ざめた輝きを放つ刃の腹には、ENOLAの刻印(スペル)が刻み込まれていた。教示者(エノーラ)を意味する、神代の文字が。
冲方丁『ばいばい、アース』上巻 p.31

「レンゲ科の鋼鉄」って何? 「教示者(エノーラ)」って? と思うでしょ。でも解説のないままに話は進みます。どうやら作者は、地の文さえも物語世界の住人の視点で描くことを選択したらしい。だから、物語世界の住人にとって自明のことは特に説明されたりはしないのです。読み進むうちに分からなかったところも見えてくるわけですが、「そんな宙ぶらりん状態はいやだ、さっさと説明しろ!」と思うような人は、このプロローグで脱落するでしょう。
まったくもって、人を選ぶ作品です。

私はといえば、ファンタジーや歴史小説で「○○というのは、われわれの世界(あるいは現代)でいえば、××のようなものである」というような記述がでてくると読む気が削がれてしまう(要するに、その世界に感情移入したい)タイプなので、『ばいばい、アース』のような書き方は読み解く苦労はあっても好ましいのです。

そして文章だけでなく、描かれた世界もキャラクターも私好みでした。

魚も鳥も動物も剣ですら植物から生み出される世界。そこでは、剣は楽器のひとつであり、集団戦闘は剣楽隊(バンド)によって行われる。そして、そこここに見え隠れする『不思議の国のアリス』『美女と野獣』の断片。
(ついでにいえば、『少女革命ウテナ』の影も見えます。「世界を穿孔せよ(デュレヒ・ブ・レッヒェン)――」)

いとおしいキャラクターたち。最初は驕慢な水族(マーメイド)の女として登場し、やがて友人となりベルを癒すためにその存在を賭けたベネディクティン。世間知らずの王女であることをやめ、最後には〈魔〉として唄うことを選び取るシェリー。尊敬すべき蛍族(ロイテライテ)の老練の剣士・ジンバック。

私の一番のお気に入りはギネスなんですが、彼については詳しく書くとネタバレになってしまいそうなので、やめておきます。

非常に読者を選ぶこの作品で、気に入る人は、ものすごく気に入って、冲方丁の熱狂的なファンになるだろうと思うんですが、ダメな人はプロローグから先に進めないだろうと思います。ファンタジー寄りの古橋秀之、ライトノベル化した飛浩隆、耽美抜きの野阿梓みたいな感じなんですけどね。

気になる方は文庫で手に取りやすい『微睡みのセフィロト』[→感想]か、漫画家の伊藤真美と組んで原作をやっている『ピルグリム・イェーガー』(1巻【bk1/amazon/Yahoo!】)(2巻【bk1/amazon/Yahoo!】)あたりから読んでみるのがよろしいのではないかと思います。
それで気に入ったら、『ばいばい、アース』を図書館にリクエスト。2000年に出た本なので、県内のどこかしらの図書館がもっているはず。いや別に購入してもいいんですが、ネット書店でも品切れだったりと、手に入れ難い本なので。

『ピルグリム・イェーガー』は漫画ですが、『ばいばい、アース』に非常に近い雰囲気です。『微睡みのセフィロト』『ピルグリム・イェーガー』のSF篇といった位置付けになるんじゃないかと思います。

(2003/04/04)

[著者]うぶかたとう    :冲方 丁
[書名]ばいばい、あーす  :『ばいばい、アース』

[Top]

冲方 丁 『カオスレギオン 0』

冲方 丁『カオスレギオン 0 招魔六陣篇』

出版者:富士見書房 富士見ファンタジア文庫
出版年:2003.3
価格 :\520+税
ISBN :4-8291-1496-7

bk1/amazon/Yahoo!
bk1(02299120)

解説:

『カオスレギオン 聖戦魔軍篇』の前日譚に当たる短篇集。出版は長編の方が先になったが、書かれたのはこちらが先。割と面白いです。

第1話での、謎の墓堀人にして黒印騎士団(シュワルツ・リッター)のジーク・ヴァルハイトの登場シーンがかっこいいので、長編よりこちらを先に読むことをお勧めします。長編は、シリアスなプロローグとどこかお笑いな登場シーンとのギャップがありすぎて、キャラクターが把握しにくいと思うので。

偉大なる万里眼の使い手である母フェリシテ・エルダーシャの力を受け継ぎ、〈銀の乙女〉の後継者となった少女ノヴィア。だが、彼女は万里眼の力を使いきれず、盲目となってしまった。
離反騎士団に包囲される都市で黒印騎士団(シュワルツ・リッター)を待つ彼女の前に現れたのは、シャベルをかついだ一人の墓堀人だった。

ノヴィアがジークにくっついて旅をするうち、自分の本当の力に目覚めるという物語。
長編では、お笑い担当のマスコットにしか見えなかった妖精アリスハートの存在意義(と変な名前の由来)が分かったのが収穫。

敵の登場パターンが似通っているので、展開が読めちゃうのが難点か。敵側にもいろいろ事情はあるんだろうから、そのへんもう少し細かく書きこめばいいのにと思った。特に第四話と第五話。

(2003/04/02)

[著者]うぶかたとう    :冲方 丁
[書名]かおすれぎおんぜろ :『カオスレギオン 0』

[Top]

冲方 丁 『カオスレギオン 聖戦魔軍篇』

冲方 丁『カオスレギオン 聖戦魔軍篇』

出版者:富士見書房 富士見ファンタジア文庫
出版年:2003.2
価格 :\620+税
ISBN :4-8291-1495-9

bk1/amazon/Yahoo!
bk1(02285962)

解説:

PS2用のゲーム『カオスレギオン』とのコラボレーションのようです。

時間設定的には短篇集『カオスレギオン 0』の続編ということになりますが、ジークと離反騎士団の長ドラクロワとの過去の因縁話の回想部分がかなりあります。

ドラクロワが出てくる部分と、ノヴィアとアリスハートが出てくる部分との雰囲気のギャップがありすぎて読むのが苦痛。特にノヴィアの「一人頑張るちゃん」には脱力感が。お笑い要素はレーベルが要求するのかもしれないけど。

ドラクロワ、ジーク、シーラの「愛ではなく理想という絆で結ばれた三人」という設定はいいんだけど、それにしてはシーラのキャラクター設定が弱い。彼女のキャラクターがもうすこし強烈だったら、「ドラクロワとジークの設定が『ベルセルク』」なんて言われなかっただろうにね。(2ch『カオスレギオン』沖方丁 スレッド#65には「やさぐれてしまったラインハルトをニヒルなキルヒアイスが説教するために追いかける話」なんていう感想もあった。たしかにそんな感じもする。)

ライトノベル系ファンタジーとしては良く出来てるんだけど、この作家だったらもっと上手く書けたはずだという気がしないでもないです。

(2003/04/02)

[著者]うぶかたとう    :冲方 丁
[書名]かおすれぎおんせいせ:『カオスレギオン 聖戦魔軍篇』

[Top]

冲方 丁 『ストーム・ブリング・ワールド 1』

表紙:4840107408

冲方 丁/大宮ソフト監修『カルドセプト創伝 ストーム・ブリング・ワールド 1 星の降る都市』

出版者:メディアファクトリー MF文庫J
出版年:2003.3
価格 :\580+税
ISBN :4-8401-0740-8

bk1/amazon/Yahoo!
bk1(02301148)

解説:

ゲーム『カルドセプト』の世界観を使ったファンタジー。ゲームのことを知らなくても楽しめます。

偉大な〈駆使者(セプター)〉である父に愛されたい一心で、大きな嘘をつきセプター候補となった少女アーティ。彼女は涙を封じることを誓った。
父であるエルライ公が治めていた故国を「黒のセプター」に滅ぼされ、一人生き延びた少年リェロン。絵筆を捨ててセプターとなった彼は微笑を失った。
それから4年。アーティが学ぶ風の神殿にリェロンはやってきた。アーティの周囲で起こるはずの「嵐」から、彼女を守るために……。

面白かったー。いいところで「続く」になっていて、じれじれしてしまいますが、4月には続刊が出るそうなのでそれまで我慢。
雰囲気はファンタジーな《フルメタル・パニック》です。謎の力を持った勝気な少女を守るため、腕は立つけどどこか抜けている少年が転校してくる――という設定はまんまフルメタなんですけどね、ディテールが違うから、似てるけど全然別物という不思議な作品。ファンタジーなので、こちらの方が設定は自然かも。フルメタは、どう転んでも設定に無理があるもんね。

『カオス レギオン』といい、この『ストーム・ブリング・ワールド』といい、冲方丁は骨組みはどこかで見たようなものなんだけど肉付けがむちゃくちゃ上手い人といった印象です。

ワタクシ、クールでボケてる(←形容矛盾?)美少年のリェロン君に萌え萌えでございます。勝気なアーティちゃんも可愛いし。『カオス レギオン』はシリアス部分とギャグ部分がちぐはぐでしたが、こちらはシリアスとコメディのブレンド具合が非常に良い感じです。

というわけで、おすすめでございます!
《フルメタル・パニック》の最新刊を読んじゃって、退屈してる人はこれを読め!!

(2003/03/25)

[著者]うぶかたとう    :冲方 丁
[書名]すとーむぶりんぐわー:『ストーム・ブリング・ワールド 1』

[Top]

冲方 丁 『ストーム・ブリング・ワールド 2』

表紙:4840107564

冲方 丁/大宮ソフト監修『カルドセプト創伝 ストーム・ブリング・ワールド 2 星を輝かせる者』

出版者:メディアファクトリー MF文庫J
出版年:2003.4
価格 :\580+税
ISBN :4-8401-0756-4

bk1/amazon/Yahoo!
bk1(02315620)

解説:

『ストーム・ブリング・ワールド 1 星の降る都市』[→感想] の続き。

「嵐」から少女・アーティを守るため、風の神殿にやってきたリェロン。だが、リェロンは〈黒のセプター〉だとされて、王宮から派遣されてきた騎士団に捉えられてしまう。
騎士団の横暴に耐え兼ねたアーティ達は……。

1巻目と2巻目のカバーは実は1枚絵でして、帯に書かれたリェロンの決め台詞が「守る相手が、君でよかったな」
きゃーーっ(はぁとっ)! うれしはずかしな決め台詞。そうですよ、これですよ、ボーイ・ミーツ・ガールな物語はこうでなくてはっ! 本文ではちょっと形を変えて出てきます。

勝気な委員長の仮面が取れたアーティちゃんのキャラがちょっと弱いのと、敵役がまぬけっぽいのが残念ですが、リェロン君の天然ボケっぷりが可愛いかったので全て許す。
でも冲方丁は、もうちょっと女性キャラの描き方を研究したほうがいい気がするな。このままだと、いかにも男の作家が考えた女の子キャラでしかないわけで。

ライトノベルとして良く出来てるので、おすすめです。

(2003/05/08)

[著者]うぶかたとう    :冲方 丁
[書名]すとーむぶりんぐわー:『ストーム・ブリング・ワールド 2』

[Top]

冲方 丁 『マルドゥック・スクランブル 圧縮』

表紙:4150307210

冲方 丁『マルドゥック・スクランブル The First Compression―圧縮』

出版者:早川書房 ハヤカワ文庫JA
出版年:2003.5
価格 :\660+税
ISBN :4-15-030721-0

bk1/amazon/Yahoo!
bk1(02326005)

解説:

ついに冲方丁がハヤカワ文庫JAに進出。
もともとは『事件屋稼業』というタイトルで、別の出版社から出る予定の本だったようです。

パトロンである賭博師シェルによって車に閉じ込められ爆死させられようとした15歳の少女娼婦バロットは、マルドゥク・スクランブル−09(オーナイン)の発令により命を取り留める。焼け爛れた皮膚を人工皮膚に変え、”電子攪拌(スナーク)”能力を得たバロットは、委任事件担当官にしてネズミ型万能兵器のウフコックを相棒に、自らの事件の解決のために戦うことになる……。

『レオン』にインスパイアされた作品だそうです。『ニキータ』『マトリックス』『スチュワート・リトル』『不思議の国のアリス』です。でもどうしても初期の平井和正を思い出してしまう。やっぱりこの作家はお笑いライトノベルよりシリアスなアクション物が合っていると思います。視覚イメージを刺激する描写力は健在。言葉遊びも健在。
15歳の美少女が主人公で、その相棒が変身自由自在の黄金のネズミという点で、もうワタクシのツボに大ハマリ。かっこいいタイトル、かっこいい装丁、早川書房の編集さん、ありがとう、ありがとう。ハヤカワ文庫JAで出て良かった! やっぱり作品にふさわしいレーベルというのはありますね。

バロットが原告として立った法廷での男どもの論理には反吐が出るけど、現実にはもっと酷いはず。まだまだ描き方がヌルいという気もしますが、エンターティメントですから仕方がない。

2002年は飛浩隆と小川一水の年でした。2003年は冲方丁の年ですね。

(2003/05/27)

[著者]うぶかたとう    :冲方 丁
[書名]まるどぅっくすくらん:『マルドゥック・スクランブル−圧縮』

[Top]

冲方 丁 『マルドゥック・スクランブル 燃焼』

表紙:4150307261

冲方 丁『マルドゥック・スクランブル The Second Combustion―燃焼』

出版者:早川書房 ハヤカワ文庫JA
出版年:2003.6
価格 :\680+税
ISBN :4-15-030726-1

bk1/amazon/Yahoo!
bk1(02337571)

解説:

刊行が待ち遠しかった2巻目!
ドンパチやっていた1巻目とはがらりと雰囲気を変えて、今回は「楽園」と呼ばれる研究施設内での出来事とカジノでの頭脳戦がメイン。巧いなぁ。もちろんアクションもあります。新たに登場したキャラクターたちも魅力的。

私は、セクハラ・イルカが気に入りました。イルカによるセクシャル・ハラスメントって成立するんだろうか?

ウフコックは前半は治療中。回復してズボンを履くシーンやボイルドとの出会いのシーンがとても素敵。果たして、バロットとボイルドとウフコックの三角関係(頂点はウフコック)の行方はどうなるのか!

読者の中にも、ウフコックに萌え萌えの人がいっぱいです。

[著者]うぶかたとう    :冲方 丁
[書名]まるどぅっくすくらん:『マルドゥック・スクランブル 燃焼』

[Top]

冲方 丁 『マルドゥック・スクランブル 排気』

表紙:415030730X

冲方 丁『マルドゥック・スクランブル The Third Exhaust―排気』

出版者:早川書房 ハヤカワ文庫JA
出版年:2003.7
価格 :\720+税
ISBN :4-15-030730-X

bk1/amazon/Yahoo!
bk1(02348419)

解説:

『マルドゥック・スクランブル 圧縮』『マルドゥック・スクランブル 燃焼』に続く完結編。

2巻目に続くカジノ勝負。今回はブラックジャック。ルールを知らなくてもスリルとサスペンスとカタルシスを十分に堪能できる。
かっこいい女性スピナーのベル・ウィングも再登場。今回の勝負相手のアシュレイとともに場を盛り上げる。
カジノ場面が盛り上がりすぎて、シェルやボイルドとの最後の対決場面の影が薄くなっちゃったけど、まあいいいやね。

マーロウとのカジノ勝負のときに、「依存」(p.46)や「誘導」「束縛(バインド)」といった言葉が出てくるのが興味深い。

――私は、あなたを使いたい。あなたは……あなたがいなくなっても私一人でできることを増やしてくれるから。
それがバロットにとっての最高の有用性だった。ウフコックは、決して人を自分に依存させようとはしない。とこまでも対等に接してくれていた。
(p.50)

この作品は、バロットが「愛」と「依存」との違いを知る物語でもある。カジノでの勝負は単なる心理戦ではなく、バロットにとってのある種の心理的な治療でもあるのだ。

アシュレイとの勝負の結末は感動的だが、私がなにより驚いたのは、アシュレイが読者の前に示してみせたこの物語のもうひとつのモチーフだ。

「まるで●●だ」※ネタバラシにつき伏字
(p.203)

このモチーフを使いたいがために、バロットは声を失ったのか! だから”楽園”はああいう場所なのか!

この作品には『不思議の国のアリス』『鏡の国のアリス』『美女と野獣』(*1) といったおとぎ話のモチーフがいくつも登場するけれど、これは気がつかなかった。ただ、モチーフのからませ方はいささか強引。アシュレイの台詞はちょっとワザとらしい。

このモチーフは単なる装飾ではなく、この作品のテーマにもかかわってくる。
「(愛されなかったときに)殺すか殺されるかしか道はないのか」という問い掛けだ。

「……我々は殺さない。我々は殺されない。我々は殺させない」
ウフコックは、合言葉のようにそれを繰り返した。
「とても難しいことだ……。ただ……挑戦する価値はある。」
(p.333)

その挑戦が完全に成功したとはいえないけれど。

いまのところ、今年度のベスト1。
完結おめでとう。すばらしい作品をありがとう。

[『マルドゥック・スクランブル』感想リンク集1]
[『マルドゥック・スクランブル』感想リンク集2]
[『マルドゥック・スクランブル』感想リンク集3]

ネットでの評判も上々です。リンク集をきっかけにこの作品を手に取ったという方もいて、リンク集を作った甲斐がありました。

作品中に頻出する「有用性」という単語については【土踏まず日記 2003/07/16】のメモが興味深いです。

 で、ウフコックが社会に対して「有用性」を証明したい。 と宣言するその意味は、えーっとたぶん「私は世界に受け入れられたい」っつーことなんだろう?
 「世界がそれを何か特別な何かと認識しないほどに、私はただ私として在りたいのだ」っていう意思表明なんだろう。 在り方としてはいたって普通なのだけど、考えてみると奇妙で不思議な在り方。 じゃないかしら。 で、なんでこんな言い方をするかっつーと、ウフコックは「銃」だからだ。
土踏まず日記 2003/07/16

ところで、アニメ化するんならARMITAGE IIIamazon】のスタッフにやってもらうのがいいんじゃないかと。
脚本は小中大先生だけど、少女好きだから巧くやってくれると思う。

*1 女性スピナーの名前が「ベル・ウィング(美しい・翼)」なのはそういう理由。『美女と野獣』のヒロインの名を持つ彼女は、蒸し焼きにされた雛=バロットにその名を継がせるのだ。

[著者]うぶかたとう    :冲方 丁
[書名]まるどぅっくすくらん:『マルドゥック・スクランブル−排気』

[Top]

冲方 丁 『黒い季節 』

冲方 丁『黒い季節 』

出版者:角川書店 
出版年:1996.6
価格 :\1165+税
ISBN :4-04-787011-0

bk1/amazon/Yahoo!
bk1(01345398)

解説:

第一回スニーカー大賞金賞を受賞した、冲方丁のデビュー作。
絶版なので、図書館で借りて読みました。

深夜の街で少年と白い女が戦う。女の手を逃れ、陸橋から身を投げた少年は、暴力団員の藤堂に保護される。だが目を覚ましたとき、少年は記憶を失い、その身元を捜す手がかりは「くぼてさん」と「ぎほうやおろず」という奇妙な言葉ばかりであった。
その頃、父の遺作「土の絵」の行方を追っていた志斐誠は、「求菩提山(くぼてさん)」の「巍封(ぎほう)八百万(やおろず)」であると名乗るひとりの女と出会う。
……
ヤクザの抗争と闇の魔力を支配する者たちが結びついたとき、災厄を呼ぶ「土の絵」の力が発動する。

伝奇バイオレンスノベルズです。冲方丁のルーツは夢枕獏だったんですね。
19歳でこれを書くとは、本当に凄い。
処女作にはその作家のその後の作品のすべてが含まれているといいますが、この作品も後の冲方丁の作品に通じる要素がいくつも出てきます。

たとえば、システムの負の部分を背負わされた者たちがその運命を変えるために闘うという要素は、『マルドゥック・スクランブル』のバロットの闘いや『ばいばい、アース』の飢餓同盟や『ピルグリム・イェーガー』にも通じるものです。
その他にも、人を愛することを恐れる男たちや意志を持つ武器といった要素が現れます。文体においては、華麗なルビと言葉へのこだわりが見られます。

言葉へのこだわりといえば、この作品では擬音をすべてルビつきの漢字で表現しているのが面白かったです。

登場人物では、藤堂というヤクザの男の存在感が印象的でした。ヤクザ仲間から一目おかれる体躯と頭脳と度胸を持ち合わせ、それでいて散り寄せられた桜の花弁をよけて通る繊細さも備えた男。はっきりとは書かれていないけれど、おそらくは虐待されて育ち、それゆえ何かを護ることや何かを育てることに恐れを抱いている男。『微睡みのセフィロト』のパットや『マルドゥック・スクランブル』のシェルに通じるキャラクターなのかなと思いました。

スニーカー大賞への応募作なんですから、本来ならば志斐誠あたりを主役に据えたほうが収まりがいいはずなんですが、脇役であったはずの藤堂の存在感が大きくなったことで、小説としてはどこかアンバランスなものになってしまったと思います。
でも、そのいびつさこそがこの作品の魅力でもあるわけですが。
金賞受賞時の選評を読んでみたいと思いました。

タイトルは地味ですね。もう少しふさわしいタイトルはないものかな。

手に入らないのが、本当に惜しいです。どこかで文庫化してください。

2007/03/15追記:
めでたく復刊!

冲方 丁『黒い季節』
amazonへ
(角川書店 ,2006.12,\1785, ISBN4-04-873747-3)
amazon】 【bk1(2731746)

[著者]うぶかたとう    :冲方 丁
[書名]くろいきせつ    :『黒い季節 』

[Top]


[Top] [Home][エレホン堂]

有里 (Alisato Akemi)
http://alisato.web2.jp/erewhon/books/