花郁悠紀子・単行本解説
* 白木蓮抄(文庫版) *


【書誌情報】
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秋田書店 秋田文庫, 1999.06, ISBN4-253-17467-1
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【収録作品】

注:作品名をクリックすると、各作品の紹介にジャンプします。(極力ネタバレにならないようにしています。)
コメントは、コミックス版のコメントを一部修正して使用しています。

【解説】

待望の文庫版の一冊目。
プリンセスコミックス版『白木蓮抄』が品切れだったため、この作品が文庫版の第一号に選ばれたのかもしれない。 日本を舞台にし、花をテーマにした作品が集められている。 「不死の花」と「百の木々の花々」は、能楽師の一家の錦木三兄妹の物語。 シリーズとしてもう一作描かれる予定だったという。
「緑陰行路」は、商業誌に描かれた最後の作品である。(絶筆は、合作『兄弟仁義』)

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* 白木蓮抄
  まぐのりあしょう

【初出】プリンセス 1979年 3月号
頁数:50頁
【コメント】

少女りよの成長を白木蓮の咲く洋館の住人たちとの交流を通して連作形式で綴った作品。 絵、ストーリー、構成どれも見事で、花郁悠紀子の代表作のひとつに数えられると思う。
いつもページ数に収まりきらない物語をかかえていたという作者の資質には、オムニバスという形式があっていたのではないかと思える。
わずか50ページの作品ながら、主人公のりよの成長だけでなく、「白い馬」の金髪の青年の人生、 「白い花」の栄と志鶴という愛憎のからみあったふたりの少年の関係、「白い火」の橘美咲紀の人生と、 様々な人々の人生を切り取って見せてくれる。
最後の「白い火」のクライマックスの「それでも...それでも、生きていかなくちゃいけません。」の一言は重い。

【登場人物】

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2. 不死の花
  ふじのはな

【初出】プリンセス 1979年 8月号
頁数:50頁
【コメント】

能楽師 錦木万里(まさと)は、家元の父から、次期能演のシテ方(主役)を譲られる。演目は「藤」。 だが、自分の舞いに迷う万里は、藤を見るため、藤妙寺という寺を訪れる。寺で菩薩像を見た帰り、 万里は崖から足をすべらせてしまう。
気が付くと、彼は観世元雅だった。室町時代の能楽の祖、世阿弥元清の息子である。 彼は、藤若の名を授けられた申楽師の少年と出会うが……。

現代物の枠の中に室町時代の話が入るという凝った構成になっています。能の「藤」をモチーフに芸術の永遠性を描いた作品。 クライマックスの藤若と藤のシーンが忘れられないという感想を持つ方が多いようです。
現代物のところで出てくる、錦木万里(まさと)、千尋(ちひろ)、百枝(ももえ)の三兄妹は、 「百の木々の花々」にも登場します。

【登場人物】

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* 百の木々の花々
  ひゃくのきぎのはなばな

【初出】プリンセス・ゴールド 1980年 春季号
頁数:40頁
【コメント】

錦木百枝の父は、能楽師 錦木流の宗家。ある日、知らないうちに見合いの席に出させられたと知った百枝は、 しきたりだらけの能楽の世界に反抗することを決意、級友たちの協力で髪をカールし、イメージチェンジを計る。 家の近所で知り合った青年とディスコへ行き、「やりたいことやるんだ」と、息巻くが……。

錦木三兄妹の末っ子百枝の物語。長男の万里は、「不死の花」の主人公でした。 ですから、もう一作描かれるはずだった作品というのは、ちょっと遊び人の次男 千尋の物語だったはずです。
錦木三兄妹の名前は、万里(まさと)、千尋(ちひろ)、百枝(ももえ)ですが、お父さんの名前は、雅臣。 「億」とか「一」がつくわけじゃないんですね。
それにしても、美形の兄は二人もいるし、見合いの相手の要さんは地味だけどいい男(見合いを断られた後も、鼓を教えてくれるらしい)だし、 百枝ちゃん、実にうらやましい環境です。

『リュウ』の特集によると、描かれるはずだった続編は『鬼花舞い』というタイトルであったようです。

【登場人物】

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4. 緑陰行路
  りょくいんこうろ

【初出】ビバ・プリンセス 1980年 夏季号
頁数:40頁
【コメント】

木々のトンネルを抜けると、かつて大学生相手の下宿屋をしていた「緑陰館」あるいは「木の間館」と呼ばれる建物がある。 美大生の綾子(りょうこ)は、その家のひとり娘である。ある日そこに胡場 巽(こば たつみ)という青年がやってきた。 下宿屋はやめたという綾子の両親を丸め込んで、彼は「緑陰館」に住み込むが……。

現代日本を舞台にした軽めのラブストーリー。
綾子が緑陰のトンネルをぬけて、「ではいってみよう」と巽と一緒に出かけるシーンで終わるこの明るい作品が、 商業誌に描かれた花郁さんの最後の作品だというは、ある意味では良かったといえるかもしれません。 「春の花がたり」のような悲しい作品が最後の作品だったりしたら、なんだかやりきれないですものね。

【登場人物】

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5. それは天使の樹
  それはてんしのき

【初出】プリンセス 1978年 2月号
頁数:31頁
【コメント】

高校生の平(たいら)は、叔母の漫画家のアシスタントをさせられている。 ある日叔母の家にアシスタントに行くと、なぜか転校してきたばかりの美少女エンジュが……。

珍しく日本を舞台にしたコメディ。 非人間的な生活を送っている漫画家(笑)に秘められたロマンチックな過去というのは、 願望か、はたまた……。
なお、環さんは、平の母の妹。でも名字は同じなんですよ。

【登場人物】

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* 幻の花恋
  まぼろしのはなこい

【初出】ビバ・プリンセス 1977年 春季号
頁数:65頁
【コメント】

大学のキャンパスで、初恋の人に似た少女を見かけた大学教授の司は、 甥に初恋の物語を語る。

何十年の時を越えてよみがえる青春時代の恋。
この後、司さんがどうなったか気になるんですが、別の人と結婚して幸せになって欲しいという気もしますね。

【登場人物】

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有里 (Alisato Akemi)
http://alisato.web2.jp/book/kai/

最終更新日:2005/05/09