花郁悠紀子・単行本解説
* 踊って死神さん *


【書誌情報】
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秋田書店(プリンセスコミックス), 1981.09, ISBN4-253-07190-2
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【収録作品】

注:作品名をクリックすると、各作品の紹介にジャンプします。
なお作品紹介では、結末までのあらすじを記してありますので、未読の方はご注意ください。

【解説】

作者の没後編まれた作品集。コメディタッチの作品が収められている。
「父の天使」は、デビュー前の未発表作品。

ここに収録された「それは天使の樹」「窓辺には悪魔」は、 「妖精は扉をあけて」(『フェネラ』収録)、「昼下がりの精霊」(『風に哭く』収録)とともに 一種のシリーズとして描かれた作品で、タイトルに出てくる天使・悪魔・妖精・精霊が、 それぞれの作品の最後のコマにも現れる。
連作好きの作者としては、これらの作品をまとめて一冊の本にしたかったのではないだろうか。

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1. 踊って死神さん
  おどって しにがみさん

【初出】ボニータ 1979年 秋季号
頁数:40頁
【あらすじ】

社交界注目の的の美女 マダム・マデラ・C.ダヴィドが、妙な条件つきで彼女の城を売りに出した。 ―いわく、買手は男性に限ること。この一ヶ月間に希望者をつのり、その人々の中から金額に関係なく、 彼女の気に入った相手に譲ると。
マデラの心をとらえたのは、美少年シザリオン。 だが、シザリオンは、城の元の持ち主デュラクセン伯爵の復讐のためにマデラに近づいたのだった。 伯爵は、シザリオンの叔父であり、8年前マデラと会っていて事故に会い盲目となっていた。 シザリオンは電気に詳しい青年ステイシーから情報を聞き出し、広間に置いてある三人の女神の像にしかけをする。 マデラがパーティで踊るときに爆発させるためだ。

シザリオンは、マデラに自分と踊るよう約束させる。だが、パーティ当日現れたシザリオンはドレスをまとっていた。 シザリオンは実は女だったのだ。プライドを傷つけられたマデラの手を取ったのはスティシーだった。 動揺するシザリオン。だが、しかけに気づいたステイシーが細工をしていたため、爆発は起こらなかった。
スティシーは、伯爵が盲目となった事故を起こしたのは姉マデラではなく自分だとシザリオンに告げる。 マデラは伯爵の元へ行き、城は、スティシーの物になる。客人たちがいなくなった広間で、シザリオンとスティシーは踊るのだった。

【コメント】

構成からすると50頁ぐらい欲しかった話なのではないかと思われます。 「城」「踊る」「死神」の三題話だったのかも。花郁作品は、こういったモチーフ先行ストーリーがほとんどです。
男装の麗人と朴とつ青年(?)の組み合わせが好みだったりします。(笑)

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* それは天使の樹
  それは てんしのき

【初出】プリンセス 1978年 2月号
頁数:31頁
【あらすじ】

高校生の平(たいら)は、叔母の漫画家のアシスタントをさせられている。 ある日叔母の家にアシスタントに行くと、なぜか転校してきたばかりの美少女エンジュが。 彼女は血のつながらない兄が結婚するのが耐えられなくて、家出をしてきたのだ。 成り行きで、アシスタントをさせられた翌朝、エンジュは平に槐(えんじゅ)の樹の下で子供の頃に遭った天使の話をする。 両親をなくして泣いていた時なぐさめてくれた天使に会いたくて、彼女はこの地へ来たのだという。
兄嫁の姿を見て逃げだして槐の樹の下で泣いていたエンジュを迎えにきたのは、平の叔母 環(たまき)だった。 エンジュはかつて見た天使が、兄の恋人だった環だったことを知る。

【コメント】

珍しく日本を舞台にしたコメディ。 非人間的な生活を送っている漫画家(笑)に秘められたロマンチックな過去というのは、 願望か、はたまた...。

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3. 窓辺には悪魔
  まどべには あくま

【初出】ビバ・プリンセス 1979年 冬季号
頁数:40頁
【あらすじ】

母親から押し付けられた婚約を嫌って、世間知らずのエルヴェットが女子寮睡眠薬で自殺を計ろうとしたとき、窓からやってきたクライゼ。 エルヴェットは、彼を悪魔だと思い込むが、実は彼は実家から独立するため、バイトに明け暮れる男。 エルヴェットの部屋にやってきたのも、ボーイフレンド斡旋のアルバイトのためで、訪れるべき部屋を間違えたのだ。
エルヴェットは、クライゼが忘れられず、彼のアルバイト先を尋ね歩く。 最後にはあやしい酒場にまでやってきて、男にからまれたところを女装姿のクライゼに助けられる。クライゼとも知らず、悩みを打ち明けるエルヴェット。
翌日、母の言いなりでなく自分の意思で行動することを決意したエルヴェットは、婚約者に会いに行く。 だが、通された部屋の窓辺で待っていたのは、クライゼだった。

【コメント】

ラストはちょっと『あしながおじさん』かも。
この主人公には、いまひとつ共感できませんが、脇役のエルヴェットの友人(♀。エルヴェットに惚れてる)と、 クライゼの友人(♂。クライゼに惚れてる)が、なかなか良かったりします。 でも、こういう人たちって、主役張れないのよね。

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4. 姫君のころには
  ひめぎみのころには

【初出】プリンセス 1980年 1月号
頁数:40頁
【あらすじ】

女性恐怖症のアルフォンスは、幼なじみのレオナから、階段から落ちて幼児退行をおこしてしまった ジウリアを押し付けられる。 レオナが恋人と同棲するので、ルームメイトだったジウリアをあずかって欲しいというのだ。 ガチガチの秀才だったジウリアは、階段から落ちて、お姫様のようになってしまったとか。 困惑したアルフォンスは、催眠術でジウリアの退行の原因を探る。 なんと、彼女はアルフォンスに一目ぼれした後、レオナと彼の関係を誤解して、幼児退行を起こしてしまっていたのだ。 正気に戻って、アルフォンスの前から逃げだしたジウリアは屋根から落ちるが、あやういところをアルフォンスに救われる。

【コメント】

設定に無理のある話なんですが、絵になるとそれなりに読めてしまいます。 でも、やっぱり変な話には違いない...。

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5. 父の天使
  ちちのてんし

【初出】未発表作品 1975年
頁数:24頁
【あらすじ】

聖ドレ校の理事長の養子になっているジュスティンは、ある日実父が描いたという堕天使と半人半馬の絵を見る。 堕天使は理事長の息子だという。その絵が気になるジュスティンは、学園で絵の堕天使そっくりの少年を見かけて恋におちる。 ようやく少年をつかまえて話し掛けてみると、"彼"は女性で、しかも理事長の孫であった。

【コメント】

デビュー前の1975年に描かれた作品。表紙裏の解説にもあるように花郁悠紀子の「世界のおおもとがすでにできつつある」のがわかります。
こういうラストですが、そこに至るまでの過程はちょっと妖しげな雰囲気です。(笑)

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有里 (Alisato Akemi)
http://alisato.web2.jp/book/kai/

最終更新日:2001/10/31